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スナック・ママとバーテン見習いボクの同棲生活

オリジナル小説です。

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第10章 -01

2013.07.13 (Sat)
先週から九月に入ったがまだ暑さが和らぐ気配はない。
その日、最初に店のドアを開けて入ってきたのは和服姿の年配の女性だった。

「ごめんください……」

「いらっしゃいませ」

「………」

見るからに高そうな銀色の糸で織られた着物を着たその女性は硬い表情で誰かを探すように店の中に視線を泳がせている。

厨房から店に出てきたママを見つけるとパットと表情が和らいだ。
と同時にママが和服の女性を見て言った。

「マリじゃない」

「幸子」

「お久しぶり。元気だった?」

「お蔭様でね。幸子も元気そうじゃない。ちょっと近くまで来たから、寄ってみたのよ」

「ショウ君。こちらマリさん。昔、一緒に銀座のお店で働いていたのよ」

「昔、昔の大昔よねぇ。もう30年以上も前だもの」

そう言ってママとマリさんは笑い出した。
マリさんは着物の裾を押さえてカンウンターのスツールへ座った。

「暑かったから喉が渇いちゃった。おビール頂こうかしら」

ボクは冷えたグラスに瓶ビールを注いで彼女の前に出した。

「バーテンさん……。もうひとつグラス、ママにも。あなたも飲みなさいよ」

「はい、かしこまりました」

ママはふざけてわざと丁寧に答えた。

ボクはカウンターを挟んでマリさんの前に立つママの前にもグラスを出した。
彼女は着物の袖を左手で押さえながら右手に持った瓶ビールをママのグラスに上手に注いだ。

「乾杯!」

マリさんは右手でグラスの淵を持ち、左手はグラスの底を押さえるように支え、両手で持ったグラスを口元へ運ぶ。
その仕草が上品だとボクは思った。

決して大きくはないが意志が強そうな瞳と、真っ赤な紅の塗られた薄く小さな唇。
目元の小じわとほうれい線が年齢を感じさせるが、間違いなく美人の部類に入る顔立ちだ。
和服姿のせいもあるが、映画『極道の妻たち』の岩下志麻のような女性だと思った。

店には他に客もいないので、二人は昔話に花を咲かせていた。

「新橋のお店? もう3年前に閉めたわよ。リーマンショックでもうやってられないと思ったから。震災の時にお店やめていて良かった。とつくづく思った……。ごめんなさい。まだ頑張っている人の前でこんなことを言って」

「じゃあ、旦那さんと悠々自適の隠居生活なのね」

「主人は去年の年末に亡くなったのよ」

「あら、やだ。年賀状出しちゃったじゃない」

「いいのよ。だって亡くなったのが12月の30日なんだから、喪中ハガキを出す方が迷惑だと思って出さなかったのよ。だから気にしないで」

ボクはカウンターの後ろにある客のキープボトルの埃を布巾で掃除しながら、二人の会話を聞いていた。

ママが週末に手伝ってもらっているヘルプスタッフの話になったとき。

「え、静江さんここで働いているの? 気をつけなさいよ。何か盗まれたり、店に変な客を連れて来られたりしてない? トラブル女なのはあなたもわかってるでしょ?」

〈静江さんってミミちゃんのことだよね?〉

ボクは2人の会話にミミちゃんの話題が出てきたことに驚き、拭いているボトルを落としそうになった。
ママがどう答えるのか気になっていると、店のドアが開いてスーツ姿の客が来店し2人の会話が中断してしまった。

「ママ。3人ね」

「いらっしゃいませ。どうぞボックス席へ」

客商売とは不思議なもので、ひと組の客が入ってくると立て続けに次から次と客が入ってくることがある。
あっと言う間にボックス席2つとカウンターも常連の客で3つが埋まった。

「じゃあ、私はそろそろ失礼するわ」

マリさんが席を立ってバックから財布を出そうとすると。
ママがマリさんの元へ走り寄り、その手を押さえた。

「今日はいいから……」

「じゃあお言葉に甘えてご馳走になるわ」

「ごめんなさいね。急にバタバタしてきちゃって、ゆっくりお話もできなくて……。今度ゆっくりお話しましょう」
 ママはマリさんをドアの外まで見送った。

「ありがとうございました」

ボクはマリさんの背中に向けてカウンターから声をかけた。
ドアの外にマリさんの姿が消えると、常連の大塚さんがボクに聞いてきた。

「いまの人誰?」

「ママが若いときに銀座のお店で一緒に働いていた方みたいですよ」

「妙に貫禄のある人だと思ったら、銀座で働いていた人か」

「ワタシは貫禄不足で悪かったわね」

店の中に戻ってきたママが大塚さんの後ろで笑いながら肘鉄を打った。

「そんな意味で言ったんじゃないよ。ママはママで素敵だよ」

大塚さんの隣りに座っている小糸さんと連れのお客様が笑った。


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