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スナック・ママとバーテン見習いボクの同棲生活

オリジナル小説です。

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第5章 -02

2013.06.27 (Thu)
その夜は平日だと言うのに店は忙しかった。
暇な日もあれば忙しい日もある。
店を開けてみないとさっぱりわからないのが水商売だ。

建設会社の高木社長は社員を5人も連れて飲みに来店し2つのボックス席が埋まり、ママは高木社長のお相手で大忙しだ。

カウンターも常連客で6つしかないスツールの5つが埋まっていた。

オカマのサリーさんも久しぶりに来ていた。
サリーさんは若いときには新宿二丁目でオカマバーをやっていたそうだが、身体を悪くして店を廃業し今はトラック運転手をやっている40半ばのマッチョなおっさんだ。
普段は普通に話すのだが酔うとお姉コトバになるのが特徴である。

「ちょっと。バーテンさん聞いてる? 牛丼食べたら300円でお釣りがきて、生卵の無料券までくれたのよ」

「良かったですね」

「良かったじゃないわよ。何でもかんでも安くすればいいと思って世の中どうなってるのかしら?」

サリーさんの隣りに座っていた常連の大塚さんも会話に加わってきた。

「本当だよなぁ。デフレ、デフレって言うけどどこまで安くすりゃ気が済むのかねぇ」

駅前でも『夏の牛丼祭』と題して並盛り380円が270円と110円も値引きしたセールを謳った垂れ幕を目にした。
個人的には値引きしてようが、してなかろうが、牛丼を食べたくなったら食べに行くとボクは思うけど、競合のひしめく業界ではそうも言っていられないのだろう。

空になったハイボールのグラスを揺すってお代わりを注文しながら大塚さんが続けた。

「牛丼の値引きもそうだけど、270円居酒屋とか。100円のハンバーガーとか……。自動販売機の缶コーヒーが80円とか……。そこまで安くしないと売れないってのは、つまりそれ以上高いものに金を出せない人がこの世の中に増えてるんじゃないのかと俺は思うんだよね」

オカマのサリーさんが食って掛かった。

「ちょっと失礼ね。缶コーヒーぐらい120円でも買えるわよ」

「でも隣の自動販売機が80円で売っていたら、安い方を選ぶだろう?」

「そりゃ決まってるじゃない。わざわざ高い方を選ぶなんて馬鹿なことしないわよ」

「だからどんどん安売り合戦が熾烈になる。でも安く売れば利益は薄くなる訳で、値下げ競争に負けた会社は倒産して、そこで働く人々は失業の憂き目にあう。たとえ勝ち残った会社で働いていても、所詮は薄利の商売だからそれに携わっている人たちの給与もどんどんジリ貧になる。だから安いものばかり買うようになる。どんどん悪循環のデフレスパイラルって奴にハマって行くんだよ」

大塚さんは40代後半のサラリーマンだ。
どんな職種の仕事をしているのか聞いたことはないが管理職だと言っていた。
少し白髪の混じった髪をオールバックにして、銀縁のメガネをかけ、夏でもスーツにネクタイ姿である。

「極端に安い商売ってのはある意味“貧困ビジネス”だと俺は思うんだよね」

「貧困ビジネスってのはホームレスの人を連れてきてタコ部屋に住まわせて、需給させた生活保護をピンハネするやつじゃないですか」

スライスしたレモンを乗せてお代わりのハイボールを出しながらボクが言うと。

「貧しい人間をターゲットにしてるんだから同じことだよ。まぁ、売ってる方も買ってる方もそうは思っちゃいなのだろうけれど……。世の中の価値観ってものがこの20年ぐらいでおかしくなっちまったんじゃないのかなぁ。インターネットや携帯電話が普及して便利な世の中にはなったけど、支出のバランスがひと昔前と大きく変わり、気が付けば子供にまで携帯電話を持たせる時代になっている。通信費に家族4人で3〜4万も払っているんだから。必要最低限のインフラだと思っているのかも知れないけど。ちゃんとしたメシを喰う方が大事なんじゃねぇかなぁ」

独身のボクには4人家族の家庭での支出の内訳というものがまったく想像できないが、街でも塾へ通う小学生の子供が携帯電話を持っているのを目にしたことがある。
高校生であれば自分でアルバイトをして携帯電話の料金を払っているのかも知れないが、小学生であれば間違いなく親が払っているのだろう。

オカマのサリーさんがタバコに火を点けながら言った。

「確かに最近じゃ昼時でも混んでいるのは牛丼屋かハンバーガーショップだけで、普通の定食屋とかはガラガラだもんね」

「震災の影響で財布の紐が固くなっているのも事実だろうが、安売りのビジネスが始まったのは震災の後からではなく、もっと前からだからなぁ。人材派遣だとか非正規雇用の労働者ばかり増えて、この先はどんどん貧富の差が広がる世の中になるんだろうなぁ。ひと昔前、いやバブル崩壊から20年だからふた昔前は一億総中流意識の日本だったのだから笑っちまうよ。高い物から売れてゆく時代が懐かしいねぇ」

「私も二丁目でお店をやっている時は景気のいいお客さんばかりで儲かったわ。でもおかげで毎晩飲みすぎて身体壊しちゃったんだから、良かったのか悪かったのかわからないけどね。アハハハハ」

「あんなアホみたいな好景気はもう2度とこの日本にはやって来ないだろうなぁ。これからは格差社会の時代だよ。貧しい人間はどこまでも貧しくなり、富める人間はますます富を手にする。嫌な世の中だねぇ。高齢化社会も深刻だし……。医者にかかる年寄りが増えて、医療保険制度も今に崩壊するんじゃねぇかなぁ。少子高齢化って言から子供が増えればこの現象は逆転するのだろうけど、突然に出生率が上がる訳もないし、仮に第3のベビーブームが起こって出生率が上がっても消費と労働力になる成人になるまでは20年かかるからなぁ。携帯電話も持てないぐらい貧しくならないと貧乏子沢山なんて家庭は出てこないかもなぁ。あ〜、嫌な世の中だねぇ。バーテンさんおあいそして」

「あら、帰っちゃうの? もう一杯付き合いなさいよ」

酔ったサリーさんが絡んだが、大塚さんは席を立ち上着の内ポケットから長財布を取り出しながら言った。

「悪いけど帰るよ。この不景気でいびつに歪んだ社会の話をしていたら、気持ちが落ち込んできたよ。また今度な」

大塚さんは自分の考えを話すだけ話して帰って行った。
一億総中流意識なんて言葉をボクは初めて聞いた。
だが、子供の頃に自分の家が金持ちだと思ったこともなければ、貧しいと思ったこともない。それが一億総中流意識だったかも知れない。


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