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スナック・ママとバーテン見習いボクの同棲生活

オリジナル小説です。

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第3章 -02

2013.06.20 (Thu)
印刷ブローカーの会社を辞めて次の仕事を探そうとしたが、求人誌で目に止まるのは印刷関連の営業職ばかりであることに気づいて自分でも驚いた。
たった2年だけ関わった仕事なのに無意識にまた同じ仕事をしようとしているのか?
いや、少しでも経験を活かせる仕事に就こうとしている自分がいた。

トップを争うまでの営業成績を残した自負はあったが、果たしてどこで使われているのか見たこともない印刷物の為に毎日終電まで働き、時には徹夜まですることに何の意味があるのか疑問に思い始めてもいた。

「ボクの自己実現って何だろう?」

社会人として会社に正社員として勤めることが重要であり、そこで出世すれば自己実現が出来るのではないかと思っていたが、果たしてそうなのだろうか?

経理担当者が横領して会社が傾き、給与が遅延する会社で自己実現が出来るのだろうか?

2年間で染み付いた印刷ブローカーの営業職という垢を落とす意味でも、社会人とか正社員という枠から外れた身分で過ごしてみようと思いアルバイトを探すことにした。

日曜日の新聞折込求人チラシで町田の自宅から自転車で通える距離にある工場のアルバイト募集を見つけた。

面接に行ってみると馬鹿でかい白い鉄筋コンクリートの建物だった。
大手電機メーカーの系列会社。そこは医療検査機器の組み立て工場だった。

採用されたボクには作業服と安全靴が支給された。
配属された第二製造部は超音波診断装置の組み立て部署で電源部分を手順書に従って組み立てる仕事であった。

朝8時半に始業のベルが鳴り、所属係長の簡単な朝礼の後に組立作業に入る。

基盤に電子部品を圧着する隣の部署からは「チュッ。チュッ。チュッ」いう音とコンプレッサーのブーンという唸り音が鳴り響く。

10時15分にチャイムが鳴るとその音が一斉に止まり十五分間の休憩に入る。

タバコを吸う者は喫煙所に集まり雑談をしながら一服する。

ボクのようなアルバイト採用の若い者もいれば、若くても正社員採用の者もいる。
妻帯者と思われる中年の正社員や頭髪に白髪が目立つ年配の正社員もみな同じ工場で医療検査機器の組み立てを行っていた。

給与は皆それぞれ違うのだろうが、行う作業は一緒だ。これが大企業の終身雇用制度であり、年功序列の社会なのだと思った。

昼には工場内の社員食堂で食事をした。
支払いは渡された社員証をレジに通すだけのキャッシュレスで、給与から差し引かれる仕組みだ。
料金も市街の飲食店と比べ格段に安かった。
従業員の福利厚生として一部を会社が負担しているからだそうだ。

午後は3時にチャイムが鳴りまた15分間の休憩に入る。
工場といっても空調の効いた構内は暑くもなく寒くもなく快適だった。
CTスキャナーやMRIなど大型の検査機器の組み立ては油圧式ジャッキや天井からぶらさがったクレーンで持ち上げるので重いものを担ぐわけでもないので汗はあまりかかない。

ある日、終業を知らせる五時のベルが鳴ったあとに構内で働く従業員の全員が社員食堂に集められた。

第3製造部の課長がマイクで言った。

「○○さんが本日で定年退職を迎えることになりました」

マイクを渡された年配の男性が全員に一礼し話し始めた。

「昭和40年△△電機に入社いたしまして、当時は計測機器の設計部に配属され、昭和62年にこちらに転籍になり通算三十五年間勤務させていただきました…」

従業員の拍手と花束を受け取って年配の男性が定年で退職した。

学校では6年とか3年とか大学なら4年とかで卒業があるが、社会に出てはじめて“定年”という会社からの卒業の瞬間をボクは見た。

アルバイトの身分の自分には関係ないと思っていたら、第2製造部の課長から社員にならないかと誘いがあった。

皆から拍手され花束を受け取り定年退職する35年後の自分の姿を想像してみた。

それまで年功序列で給与は徐々に上がるのかも知れないが、定年まで同じ組み立て作業をするのは自分には耐えられないと思った。
気づけば1年半も続けていた工場のアルバイトだが、このまま正社員になって同じ作業を続けても意味が無いと思い辞めた。


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