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スナック・ママとバーテン見習いボクの同棲生活

オリジナル小説です。

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第6章 -02

2013.06.30 (Sun)
ボクが初めて“神座”のラーメンを食べたのは大阪の千日前であった。

その頃のボクは四谷の若葉にある小物雑貨を企画・製造販売するメーカーで働いていた。
商品の製造工程管理と営業マンとして幾つかの取引先も持たされていた。
取引先は全国にあり、ボクは関西方面の担当であったので毎月大阪へ出張していた。

東京駅から朝7時20分の新幹線に乗り込み、10時少し前に新大阪駅へ到着する。
そこから地下鉄・御堂筋線に乗って梅田へ向かう。
地下鉄と言っても新大阪駅のホームは高架にある。
次の西中島南方駅を出ると電車は淀川の鉄橋を渡る。
平行して国道を走るクルマを眺めていると、電車は右にカーブして国道を走る車との間隔が開き地下にもぐる。

梅田周辺の得意先を回り、そこからまた地下鉄・御堂筋線に乗って心斎橋へ移動する。
心斎橋でも雑貨を置いている書店や文具店を回り、徒歩で南下して道頓堀川を渡ってなんばに入る。

阪神タイガースが優勝すると酔って狂乱した若者が橋の上から川へ飛び込むことで有名なひっかけ橋は欄干に高さ3メートル近い鉄の柵が設置され、もう阪神タイガースが優勝しても道頓堀川へ飛び込むことは不可能だろう。

なんばでも千日前商店街にある得意先を回り、なんばグランド花月の並びにある“わなか”のたこ焼きと缶ビールを買ってビジネスホテルにチェックインする。

翌日は神戸・三ノ宮の得意先を回って、帰りは新神戸から新幹線で東京へ帰る一泊二日の出張コースが定番となっていた。

出張先での夜というものは退屈なものである。
毎月訪れる大阪の夜を一緒に楽しむ相手を探そうと、日ごろから、今ほど規制の厳しくなかった出会い系サイトで遊んでいたボクは恭子さんという大阪に住む女性と知り合った。

ボクが29歳で、恭子さんは31歳。
何度もメールをしてボクが大阪出張の日にいよいよ会うことになった。

待ち合わせの難波の高島屋前に現れた恭子さんは少し地味な印象の女性であった。

「将二さんですか?」

「はい、メールの……」

「私、恭子です」

そう、将二とはボクの名前だ。
二男だから将二と名付けたと小さい時に親父から教えられたが、兄貴の名前は剛史だ。
なぜ将一ではないのか大人になって疑問に思ったこともあるが、そのことを親父に聞いたことはない。

話を戻すと、ボクと恭子さんは2人で食事をしながら酒を飲んだ。
恭子さんは人妻で昼間は長堀橋にある会社で事務の仕事をしていること。
子供はまだいないこと。
今日は友達と飲みに行くので遅くなると旦那さんに嘘を言って来たことを話した。

2時間ほど楽しく酒を飲みながら会話して店を出た。
ボクは、ほろ酔いになった恭子さんを泊まっているビジネスホテルに連れ込んだ。

あっさり付いてきたので、こういう事には慣れているのかと思っていると。
先ほどまで楽しく話していた恭子さんの表情が硬くなっていることに気づいた。

「お願いやから部屋を暗くして……」

「いいよ。恥ずかしいなら暗くしてあげるよ」

部屋の照明を暗くして抱き寄せキスをしようとすると。

「私、やっぱり無理や。私、男の人とするの怖くて出来へん!」

恭子さんによれば、彼女にとってセックスは苦痛なもので、今までに一度もセックスを気持ちいいと感じた事が無いと言うのである。

結婚前にも付き合った男はいたが、セックスが苦痛で彼女が拒むからすぐに別れることになってばかりいたそうだ。
そんな時に今の旦那さんと知り合い。
「セックスが苦痛ならしなくていいから結婚しよう」と言われ一緒になったそうだ。

付き合ったらヤルのが当たり前と思っているボクには「セックスが苦痛ならしなくていいから結婚しよう」と言う男がいることが信じられない話であった。

「じゃあ、なぜ今日はホテルまで付いてきたの?」

「会ってみたら、あなたが優しそうな感じやったから……」

この手の女性にはギラギラした雄の性欲みたいなものを出すのは禁物だ。
セックスに対する恐怖心を取り除きまったりとした雰囲気を演出するのが効果的だと心得ている。
ある意味「セックスが苦痛ならしなくていい」と言った彼女の旦那さんはかなりのヤリ手かと思ったりもするが、実際に夫婦間で性交渉がないのだから、やはり変人かも知れない。

「よし。わかった。無理にしないからシャワーを浴びておいで」

ビジネスホテルのユニットバスは狭いが女と一緒に風呂に入るのがボクは好きだ。
だからこの定宿にしているビジネスホテルで今までにも出会い系サイトで知り合った女性と一緒にシャワーを浴びたことが何度もある。
しかし、今日ばかりは恭子さんの様子から一緒に入るのは無理だと断念した。

彼女は服を着たまま狭いユニットバスに入るとカチャリと鍵をかけてしまった。
しばらくするとシャワーの音がしたが鍵をかけられてしまっては裸で乱入する訳にもいかない。
ボクはあきらめてタバコを吸っていると、バスタオルをしっかり身体に巻き付けた恭子さんが脱いだ服を持って出てきた。

昼間は得意先回りで汗をかいたので、ボクは彼女の目の前でパッパと服を脱ぎシャワーを浴びた。
さっぱりして出てくるとベッドライトまで消されていて、室内は真っ暗になっていた。
ベッドの上では彼女が布団をかぶって盛り上がっている輪郭がかすかに見えた。

ボクは隣にもぐりこみ恭子さんを抱きしめた。
目を閉じて身体を硬くしている彼女はバスタオルを巻いたままだ。
ボクは彼女の髪を撫でキスをした。
唇を閉じているのでフレンチキスにしかならない。

バスタオルをほどこうとすると彼女の手がそれを邪魔した。
仕方がないのでバスタオルの上から彼女の乳房があると思われる周辺を愛撫した。
決して焦ることなく、ゆっくりとマッサージでもするかのようにバスタオルの上から乳房を愛撫し続けると「は~ぁ」と吐息が漏れ出し、硬くしていた身体から少しずつ力が抜けてゆくのがわかった。

ボクはゆっくりと下に手を伸ばしバスタオルの裾から彼女の内股へ手を滑り込ませた。
開きかけた足がきゅっと閉じて内股に滑り込ませた手が挟まれたが、ボクがキスをすると今度は僅かに彼女の唇が開いた。
舌を差し入れると彼女の舌に触れた。
舌を絡めながら唇を吸うと、きゅっと閉じていた足の力が緩んだ。
一気にボクは手を奥へ滑り込ませ目的地へ到着させた。

そこはしっかりと濡れていた。
2人の体温で熱の籠もった掛け布団を剥いで、彼女の身体に巻きついたバスタオルをほどく時にはもう抵抗はされなかった。

ピンと勃起した乳首を口に含み舌でころがしながら、指でぬめったひだを分け入り陰核を愛撫する。

指を中へ入れようとするとイヤイヤをして抵抗した。

正常な女として身体はこんなにも反応しているのに、どうやら挿入時に苦痛を経験した記憶が彼女の心の中に強く残っているようであった。

〈こうなりゃぁ徹底的に愛撫してやれ!〉

両足を開かせ女性自身を舌で愛撫すると彼女の呼吸は荒くなり、女が感じている時の鳴き声を上げはじめた。
たっぷりと30分以上も愛撫を続けたのであるから、そこから先の行為は楽なものであった。

待ち合わせの前にドラッグストアで買っておいたコンドームを装着して、一気に挿入した。

一瞬だけ恭子さんが苦痛を感じるような表情を見せたが、ゆっくりとストロークを始めると快楽に悶える表情に変わった。

ことが終わって帰り支度をする恭子さんが言った。

「私、初めて気持ちええと思うた」

「健康な女性なら誰だってセックスは気持ちいと感じるものだよ。今までに抱かれた男があまりにも下手だったんじゃないの?」

「そうなんかしら……。ねぇ、また会ってくれる? 今度はいつ大阪に来るの?」

こんな感じで月に一度の大阪出張の度に彼女と会っていたのだが……。
彼女が会うたびに変わって行くことにボクは戸惑いを感じた。

服装が派手になり、ある時はバーゲンで買ったと言うブランド物のバックが入った大きな紙袋を下げて現れたりした。

事務で働いていた会社は辞めて、違う仕事をしているとは聞いていたが、子供がいない夫婦共働きとはいえ、普通のOLがそんなに服やバックを買えるのか不思議に思った。

ベッドでも彼女の変化に驚かされることがあった。
最初はフェラチオなんてお義理程度にしかしようとしなかった彼女が、積極的に咥えるようになり、その舌使いが絶妙に男の感じるツボをおさたものに上達していた。

「ダメ、ダメ、それ以上やったらイッちゃうよ」

ボクが止めようとすると俄然激しいストロークでイカせようとする彼女。
遂には耐え切れなくなったボクは彼女の口で射精してしまった。

口の中にある精液をティッシュに出すしぐさや男を口でイカせた征服感に似た彼女の表情を見た時に思った。

〈まさか風俗嬢に?〉

新しい仕事はどんな仕事なのか聞いてみたが、曖昧にはぐらかすだけで彼女は教えてくれなかった。

どうやらボクとのセックスで快楽に目覚めた彼女は、風俗に転職したと思われる。
それに彼女は頻繁に出会い系サイトで知り合った男とも会っているようであった。

ある時、行為が終わった後で彼女がポツリと言った。

「私、ホンマ好きな人ができちゃったみたい」

セックスの後に先程まで自分の腕の中で悶えていた女性にそう言われてもショックではなかった。
俗に言う“セフレ”という割り切りと冷めた気持ちで彼女と毎月会っていた訳ではない。
嫌いではないけど、彼女に対して特別な感情があるという訳ではないのだと、この時に気づいた。

「どんな奴なの?」

「私より2つ年上で、会社をやっている人。私のこと彼も大好きだって言ってるし」

「ふ~ん。その人は結婚してるの?」

「バツイチ」

「じゃぁ、恭子ちゃんも今の旦那さんと離婚して、その人と結婚するの?」

「まだわからへん……」

〈その人は恭子ちゃんが風俗で働いているの知ってるの?〉

と聞こうとしたが、本人が風俗で働いている事を認めていないのだからボクはそれを言葉にしなかった。

そんな恭子さんが「ちょっと変わったラーメンやけど、美味しいのよ」と連れて行ってくれたのが千日前にある“神座”であった。

彼女と“神座”で「おいしいラーメン」を食べた翌月、ボクは次の大阪出張の日程が決まったので彼女にメールで連絡をすると、宛先不明でメールが戻ってきてしまった。
アドレスを変えたのかと思い携帯に電話してみたが……。

「お客様のおかけになった電話は現在使われておりません」
とアナウンスが流れるだけであった。

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第6章 -01

2013.06.29 (Sat)
ママは朝からクルマで何処かへ出かけてしまった。
クルマで出かける時はいつもボクを誘って、ボクを運転手に使うのだが、今日はなぜか何処へ行くとも言わずひとりサッサと出かけてしまった。

ちなみにママのクルマはベンツである。
年式は古く少々ガタのきている感じだが腐ってもベンツである。

ひとり部屋に居てもつまらないので、ボクは都バスで久しぶりに池袋まで出てみることにした。

都バスに乗るといつも感じるのは年寄りが多いことだ。
足腰が弱って歩くのもおぼつかない高齢者にとって都バスは大切な足となっているみたいだ。

横向きに座る優先席には白髪の老婆と頭が禿げたお爺さんに胡麻塩頭の痩せた年配の男性が座っている。
反対側の進行方向へ向かって座る一人掛けの座席も年配の乗客ばかりだ。
バスの後部座席は一段高くなっているので、年寄りには上がるのが億劫なのだろう。

そんな年寄りの乗車率が多い都バスの車内だから、年寄りが年寄りに席を譲る場面を見たのは今までに一度や二度ではない。

今日もボクが乗車した次の停留所で腰がくの字に曲がったお婆さんが杖をついてヨロヨロと乗り込んできた。
すると優先席に座っていた胡麻塩頭の痩せた年配の男性が立ち上がってそのお婆さんに席を譲った。

「どうぞ座ってください」

「すぐに降りますから大丈夫ですよ」

「いいから、いいから、どうぞ座ってください。ボクの方がまだ若いですから」

「でも、すぐに降りますから……」

「まだ74ですから、私の方が若いですから」

「悪いわねぇ。ありがとうございます」

70代の年寄りが、明らかにそれ以上の年寄りと思われる女性に席を譲る光景をまた見てしまった。
だからボクは席が空いても決して座らないことに決めている。
池袋まで30分以上も揺れるバスの中で立っているのは少々辛いが仕方ない。

バスの車内は冷房が効いていたが、終点の池袋に到着してバスを降りると街はムワっとした熱気に包まれていた。
梅雨も明けて本格的な夏がやって来たのだ。
ボクは人通りの多いサンシャイン通りへ向かった。

平日の昼間だというのにこの通りはいつも人が多い。
大学生なのかフリーターなのかよくはわからないが若者の姿が目立つ人ごみを進んだ。

サンシャイン60へ向かう大通りの手前で路地を左に曲がると“神座”がある。
神座と書いて“かむくら”と読ませる。
本店は大阪の道頓堀にあるラーメンチェーンだ。

券売機で食券を買ってカウンターに座って待つことしばし。
目の前に登場したのは店の定番「おいしいラーメン」だ。
スープは塩味だがトロミがある。
それとたっぷりと入った白菜と薄いが大きめのチャーシューが特徴だ。

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第5章 -03

2013.06.28 (Fri)
ママのお店は日曜日が定休日だが、団体の予約が入れば店を開けることもしばしばある。
この日曜日は地元婦人会の年度末の打ち上げとやらで15名ほどの予約が入っていたので、ボクは翌日の競馬・七夕賞の予想を店が終わった深夜からママのマンションで始めなければならなかった。

七夕賞は福島競馬場で開催される芝2,000メートルの重賞レースだ。
正式名称は『福島県知事賞、福島商工会議所会頭賞』という間に雨垂れが入る長い名称のレースだとウィキペディアに書いてある。

そんな七夕賞であるが今年は震災の影響による福島競馬の開催中止に伴い、中山競馬場で開催された。

いつものようにヤフースポーツの出走表から近6走のデータをエクセルのワークシートに入力し距離別の走破タイムや着順ポイントに上がり3ハロンの平均タイムなどを色付けした。

距離2,000メートルで走破タイムが1番速いのは③オペラブラーボ。
1,800と2,200メートルで速いのは④サンライズベガだ。

人気を集めていたのは金鯱賞で2着だった⑨キャプテントゥーレ。
この馬も1,600と2,000メートルの走破タイムはなかなかのものだ。

しかし、走破タイムが速いからといって成績が必ずしも良いとは限らない。
ボクは走破タイムより着順ポイントと追い込み指数を重視する。

この2つの数字を合算した数字をボクは“総合ポイント”と勝手に呼んでいる。
と言っても誰かに講釈をたれる訳じゃないし、お店のお客さんと競馬の話はしないことに決めている。

総合ポイントが出走する17頭中で1番高い15.0ポイントの馬が⑮イタリアンレッドだ。

ちなみに1,800と2,000メートルで走破タイムが速い③オペラブラーボは8.0ポイント。
1,800と2,200メートルで速い④サンライズベガは5.7ポイントで1番人気の⑨キャプテントゥーレは4.5ポイントである。

〈イタリアンレッド?〉

聞いたことのない馬だった。
と言うよりもボクの競馬はネットの出走表からデータを拾い、エクセルに入力してソートして着色し、ワークシートに入力した数値で馬券を買うので馬の名前を殆ど覚えない。

軸にする馬も番号なら切る馬も番号でしか認識しない。

⑮イタリアンレッドを1着固定の3連単フォーメーションで、切る馬は①⑦⑧⑪⑫⑬⑭⑰、3着に押さえたのが⑥⑯。

42通りからネットバンクに4,000円をコンビニのATMで入金して手数料を引かれた3,800円でオッズの低い4点を切ってPATに投票し終えた時には窓の外はすっかり明るくなっていた。

ボクはセミダブルのベッドで軽いいびきをかいて寝ているママの隣に体を横にした。


第5章 -04

店に入ったのは昼の12時だ。

厨房の奥に仕舞い込んである組み立て式のテーブルと積み重ねて仕舞ってある丸イスを出して15名分の席を用意した。

地元婦人会の奥様方が来店する15時までにボクはオードブルのサラミやチーズを切って盛り付け、ママと手伝いに来てくれたミミちゃんが炊き上がったご飯で作るおにぎりに入れる塩ジャケを焼いた。

ママは留美ちゃんにも手伝いに出てきて欲しいと頼んだが、留美ちゃんにはあっさりと断られた。

15時少し前から次々に婦人会の方が来店しはじめた。
どんな素敵な奥様が来るのかと密かに期待していたのだが、かなり高齢の女性ばかりで婦人会と言うよりは老婦人会といった感じであった。

話し声の馬鹿でかさと、テレビのお笑い番組で入る効果音的なおばちゃんの笑い声に、甲高いカラオケの歌い声でボクの頭の中はキンキンして眩暈を覚えた。
そんな休日の団体客に閉口しながら、空いたグラスを下げたりビールやサワーのお代わりを作っては運び大忙しで七夕賞の結果も気にはなっていたがそれどころではなかった。

ママはカラオケの入力端末を持って、まだ歌っていない客にしきりに歌うように勧めて周っている。

空のビール瓶を持ってカウンターに戻るとカウンターの中でタバコを吸っていたミミちゃんが言った。

「あんたも大変ね。幸子ママにこき使われて……」

「仕事ですから……」

ボクは努めて真面目そうに答えた。

ミミちゃんが入ってから数週間は経つが面と向かってふたりだけで言葉を交わすのは初めてだった。
店の開店時は留美ちゃんもいるし、お店が始まってしまえば客を相手するのに忙しく、店が終わればサッサとミミちゃんは帰ってしまうので、店の中で働くミミちゃんの姿は見ていても話しかけられることは今まで無かったのだ。

「あ~、あたしも仕事抜きてパーッと飲みに行きたいなぁ」

独り言の様に言うミミちゃんにボクは言ってみた。

「今度、一緒に飲みに行きましょうか?」

「幸子ママに悪いわ」

〈え、ママとの関係をこの人は知ってるの?〉

「大丈夫ですよ。ママは関係ありませんから」

何が関係ないのか。
関係とはどういう意味なのか言ってる自分もよくわからないままミミちゃんに携帯のメールアドレスをボクは伝えた。

地元婦人会の団体が帰ったのは18時半過ぎだった。
片付けをして店を出たのは19時を過ぎていたが外はまだ夕暮れ時だった。
夏至は過ぎているはずなのに、この時期はまだ日が沈むのが遅い。

日が傾いたとはいえ、外の気温はまだ高く冷房の効いた店と外の気温差に身体が変になりそうだ。
歩いていると背中と首筋に汗が滲んできた。

ママのマンションに帰ると、着替えもそこそこにハードディスクレコーダーに録画した競馬中継を再生して観た。

早送りボタンで番組冒頭からパドック風景もすっ飛ばす。
スターターが赤い旗を振るところで早送りをとめた。

ゲートが開き各馬がスタートすると①エーシンジーラインと一番人気の⑨キャプテントゥーレが4コーナーまでレースを引っ張ったが、直線でピンクの帽子が中段からスルスルと順位を上げて⑮イタリアンレッドが見事一着でゴール前を駆け抜けた。
一番人気だがボクの総合ポイントでは4.5ポイントしかなかった⑨キャプテントゥーレは12着に終わった。

 2011年7月10日(日)
 第47回七夕賞(GIII)
 一着 ⑮イタリアンレッド
 二着 ⑩タッチミーノット
 三着 ②アニメイトバイオ
 ⑮-⑩-② 三連単 84,620円

 パソコンでネットバンクの口座を確認すると84,620円の払い戻しが入金されていた。
(第6章へつづく)


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第5章 -02

2013.06.27 (Thu)
その夜は平日だと言うのに店は忙しかった。
暇な日もあれば忙しい日もある。
店を開けてみないとさっぱりわからないのが水商売だ。

建設会社の高木社長は社員を5人も連れて飲みに来店し2つのボックス席が埋まり、ママは高木社長のお相手で大忙しだ。

カウンターも常連客で6つしかないスツールの5つが埋まっていた。

オカマのサリーさんも久しぶりに来ていた。
サリーさんは若いときには新宿二丁目でオカマバーをやっていたそうだが、身体を悪くして店を廃業し今はトラック運転手をやっている40半ばのマッチョなおっさんだ。
普段は普通に話すのだが酔うとお姉コトバになるのが特徴である。

「ちょっと。バーテンさん聞いてる? 牛丼食べたら300円でお釣りがきて、生卵の無料券までくれたのよ」

「良かったですね」

「良かったじゃないわよ。何でもかんでも安くすればいいと思って世の中どうなってるのかしら?」

サリーさんの隣りに座っていた常連の大塚さんも会話に加わってきた。

「本当だよなぁ。デフレ、デフレって言うけどどこまで安くすりゃ気が済むのかねぇ」

駅前でも『夏の牛丼祭』と題して並盛り380円が270円と110円も値引きしたセールを謳った垂れ幕を目にした。
個人的には値引きしてようが、してなかろうが、牛丼を食べたくなったら食べに行くとボクは思うけど、競合のひしめく業界ではそうも言っていられないのだろう。

空になったハイボールのグラスを揺すってお代わりを注文しながら大塚さんが続けた。

「牛丼の値引きもそうだけど、270円居酒屋とか。100円のハンバーガーとか……。自動販売機の缶コーヒーが80円とか……。そこまで安くしないと売れないってのは、つまりそれ以上高いものに金を出せない人がこの世の中に増えてるんじゃないのかと俺は思うんだよね」

オカマのサリーさんが食って掛かった。

「ちょっと失礼ね。缶コーヒーぐらい120円でも買えるわよ」

「でも隣の自動販売機が80円で売っていたら、安い方を選ぶだろう?」

「そりゃ決まってるじゃない。わざわざ高い方を選ぶなんて馬鹿なことしないわよ」

「だからどんどん安売り合戦が熾烈になる。でも安く売れば利益は薄くなる訳で、値下げ競争に負けた会社は倒産して、そこで働く人々は失業の憂き目にあう。たとえ勝ち残った会社で働いていても、所詮は薄利の商売だからそれに携わっている人たちの給与もどんどんジリ貧になる。だから安いものばかり買うようになる。どんどん悪循環のデフレスパイラルって奴にハマって行くんだよ」

大塚さんは40代後半のサラリーマンだ。
どんな職種の仕事をしているのか聞いたことはないが管理職だと言っていた。
少し白髪の混じった髪をオールバックにして、銀縁のメガネをかけ、夏でもスーツにネクタイ姿である。

「極端に安い商売ってのはある意味“貧困ビジネス”だと俺は思うんだよね」

「貧困ビジネスってのはホームレスの人を連れてきてタコ部屋に住まわせて、需給させた生活保護をピンハネするやつじゃないですか」

スライスしたレモンを乗せてお代わりのハイボールを出しながらボクが言うと。

「貧しい人間をターゲットにしてるんだから同じことだよ。まぁ、売ってる方も買ってる方もそうは思っちゃいなのだろうけれど……。世の中の価値観ってものがこの20年ぐらいでおかしくなっちまったんじゃないのかなぁ。インターネットや携帯電話が普及して便利な世の中にはなったけど、支出のバランスがひと昔前と大きく変わり、気が付けば子供にまで携帯電話を持たせる時代になっている。通信費に家族4人で3〜4万も払っているんだから。必要最低限のインフラだと思っているのかも知れないけど。ちゃんとしたメシを喰う方が大事なんじゃねぇかなぁ」

独身のボクには4人家族の家庭での支出の内訳というものがまったく想像できないが、街でも塾へ通う小学生の子供が携帯電話を持っているのを目にしたことがある。
高校生であれば自分でアルバイトをして携帯電話の料金を払っているのかも知れないが、小学生であれば間違いなく親が払っているのだろう。

オカマのサリーさんがタバコに火を点けながら言った。

「確かに最近じゃ昼時でも混んでいるのは牛丼屋かハンバーガーショップだけで、普通の定食屋とかはガラガラだもんね」

「震災の影響で財布の紐が固くなっているのも事実だろうが、安売りのビジネスが始まったのは震災の後からではなく、もっと前からだからなぁ。人材派遣だとか非正規雇用の労働者ばかり増えて、この先はどんどん貧富の差が広がる世の中になるんだろうなぁ。ひと昔前、いやバブル崩壊から20年だからふた昔前は一億総中流意識の日本だったのだから笑っちまうよ。高い物から売れてゆく時代が懐かしいねぇ」

「私も二丁目でお店をやっている時は景気のいいお客さんばかりで儲かったわ。でもおかげで毎晩飲みすぎて身体壊しちゃったんだから、良かったのか悪かったのかわからないけどね。アハハハハ」

「あんなアホみたいな好景気はもう2度とこの日本にはやって来ないだろうなぁ。これからは格差社会の時代だよ。貧しい人間はどこまでも貧しくなり、富める人間はますます富を手にする。嫌な世の中だねぇ。高齢化社会も深刻だし……。医者にかかる年寄りが増えて、医療保険制度も今に崩壊するんじゃねぇかなぁ。少子高齢化って言から子供が増えればこの現象は逆転するのだろうけど、突然に出生率が上がる訳もないし、仮に第3のベビーブームが起こって出生率が上がっても消費と労働力になる成人になるまでは20年かかるからなぁ。携帯電話も持てないぐらい貧しくならないと貧乏子沢山なんて家庭は出てこないかもなぁ。あ〜、嫌な世の中だねぇ。バーテンさんおあいそして」

「あら、帰っちゃうの? もう一杯付き合いなさいよ」

酔ったサリーさんが絡んだが、大塚さんは席を立ち上着の内ポケットから長財布を取り出しながら言った。

「悪いけど帰るよ。この不景気でいびつに歪んだ社会の話をしていたら、気持ちが落ち込んできたよ。また今度な」

大塚さんは自分の考えを話すだけ話して帰って行った。
一億総中流意識なんて言葉をボクは初めて聞いた。
だが、子供の頃に自分の家が金持ちだと思ったこともなければ、貧しいと思ったこともない。それが一億総中流意識だったかも知れない。


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第5章 -01

2013.06.26 (Wed)
一週間ぶりに自分のアパートのドアを開けると部屋中が腐敗臭で一杯になっていた。
臭いの元は口を閉じていないゴミ袋に捨てた、食べかすがこびり付いたコンビニ弁当の箱やカップラーメンのカップからだ。

店が忙しい日はつい自分のアパートまで帰るのが億劫になってしまい、ママのマンションで寝泊りする日が続いていた。

店が終わってから一緒に風呂に入って互いの背中を洗いっこして、風呂上りに缶ビールで乾杯してテレビを見ながら軽く食事を共にする生活がいつのまにか二人の日常になっていた。

一昨日からボクは風邪を引いたみたいで喉が痛み、頭がボーッとして少し熱もあるようであった。
ママに風邪をうつしてしては大変だと思い、今夜は自分のアパートに帰って寝ることにしたのであった。

熱で節々が痛むのを我慢してまずはこの悪臭を退治すべくゴミ袋を外のゴミ捨て場に出した。

〈燃えるゴミの収集日っていつだっけ……〉

そんなことをぼんやりと考えてはみたが、強烈な腐敗臭を発するゴミ袋を一刻も早く捨てたかった。
次に部屋の空気を入れ替えようと窓を開けた。
窓の外には手を伸ばせば届きそうな隣のモルタルの壁が見えるだけだ。

7月に入って気温も上がっているので、外からは生暖かい空気がゆるゆると入ってくるだけである。
店から30分も歩いて汗をかいた肌がベトベトして不快だったが敷きっぱなしの煎餅布団に横になった。

先月の晦日にはヤクザの司さんは現れなかった。
代わりに若い組員が菓子折りを持ってやってきた。
司さんは持病の糖尿病が悪化して入院しているそうだ。

旨い物ばかり食べて歩かないから糖尿病はヤクザの職業病だということを何かの雑誌で読んだことがある。
何の雑誌で読んだのか思い出そうとしているうちに眠ってしまったみたいだ。

猛烈な喉の渇きで目が覚めた。
携帯の時計を見ると午後3時6分。12時間も爆睡したようであった。

冷蔵庫の中にある飲みかけのペットボトルのお茶を飲もうと手を伸ばしたが、いつ口を開けたものか定かではないので止めた。
うっかり飲んで腹でも下したら堪ったものではない。のろのろと流しまで歩いて蛇口から生温い水をガブガブと飲んだ。
すっかり熱は下がったようで、渇きもおさまれば喉の痛みも消えていた。


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第4章 -03

2013.06.25 (Tue)
安田記念は東スポでも推している単勝2.2倍の⑧アパパネを軸にすることにした。

前日の土曜日にネットバンクに2,000円を入金して、手数料を引かれた1,800円で京都の最終12Rを3連複で買ったら的中して、8,200円の払い戻になったので、3連単マルチで配当高めを82点をネットのPATで買った。

結果は9番人気の3歳馬⑭リアルインパクトが勝って、2着に5番人気の①ストロングリターンで馬単25,810円。3連単は335,600円の高配当と荒れた。

勝った⑭リアルインパクトに騎乗した戸崎圭太はGⅠ初勝利となった。

人気を負った⑧アパパネは直線で伸びず6着に敗れた。

敗れたアパパネの蛯名ジョッキーが着た黄色と黒の楔形模様に腕の部分が青の勝負服を見るとボクは7冠馬ディープインパクトを思い出す。

6年前、当時30歳だったボクは新宿の四谷若葉にある小物雑貨のメーカーで働いていた。オリジナルキャラクターの携帯ストラップや液晶クリーナーなどを製造・販売する会社だ。

町田の医療機器組み立て工場のアルバイトを辞めたボクは浅草橋にある雑貨卸の会社に就職した。
その会社ではこの小物雑貨を製造するメーカーの商品も取り扱っていた。

問屋業とは製造するメーカーと小売店の橋渡しをするような業務であり、時には小売店からの商品に関する要望や改善案などを聞くことがある。
そんな小売店から聞いた話を製造元のメーカーに伝えたところ「ウチの会社に来ないか」と誘われ転職したのであった。

20名ほどの小さな会社でボクは営業と製造工程の管理を任されていた。

ある時、新商品の表示価格に印刷ミスがあり発注した印刷工場へ刷り直しをさせる事故が起きた。

発注した原稿では税込み表記であったものが、仕上がってみればなぜか税別表記で印刷されてしまったのだ。
校正刷りで見落としてしいたボクの責任でもあるが、上司は発注した原稿が間違っていないのだから印刷工場に無償で刷り直しをさせろと言って聞かない。

発注した印刷工場はボクが高校を卒業して最初に就職した早稲田にある印刷ブローカーの会社で下請けとして使っていた小さな印刷工場であった。

「ちゃんと確認の為にわざわざ校正を出しているんだから、ちゃんと見て確認してくれないと困るよ。紙代だけでも三十六万円はかかるんだからさぁ」

自分がちゃんと確認をしていれば防げた事故であると思うと責任を感じずにはいられなかったが、そんな製造工程のやり取りを理解する上司ではなかったので刷り直しの請求を会社が受け取るはずもなく、板ばさみになったボクはただただ印刷工場の社長へ頭を下げて無償での刷り直しをお願いした。

「しょうがないなぁ。君とは長い付き合いだから今回だけはウチがかぶるよ」

刷り直しに掛かる紙代の36万円だけでもせめて弁済しようとボクは思った。
しかし、貯金などまったくないボクには36万円ものお金を工面する手段がなかった。
そこで思いついたのが競馬であった。

6年前のボクはまったく競馬などに興味のない人間であった。
日曜日に何気なく付けたテレビが競馬中継を放送していた。
メインレースの払い戻しが映し出されると単勝が160円と1番人気で決まったのに3連単は8万円ほど着いていた。

その他のレースの払い戻しに切り替わると、3連単の払い戻し金額が20数万円であった。

〈競馬で当てれば印刷会社の社長に弁済できるかも知れない……〉

そう思ったボクは翌週の日曜日からスポーツ新聞の馬柱と睨めっこしてメインレースの3連単を買い始めた。1着になると目星を付けた馬を2頭に絞り、その3連単で36万円の配当になる買い目を選んでみたが、どれも穴馬券ばかりだ。

そこで700倍以上のオッズを5枚、900倍以上のオッズを4枚と的中した時の払い戻しが36万になる様に買うことにした。

正確なオッズを取る為にネットバンクに口座を作って、PAT会員にも登録した。
オッズ順に並べ替える為にノートパソコンでエクセルを使った。

PATで馬券を買うことも出来たが、ボクが現金を持参しても受け取らないと思ったので、的中馬券を持ってあの印刷工場の社長へ渡す為に、部屋でマークシートをシコシコと記入して、場外馬券売り場で馬券を購入した。

予算は1回に15,000円。
それがボクに工面できる最大の金額だった。

最初の日曜日はカスリもせずにあっさりとはずれた。
翌週の日曜日は1着になると目星を付けた馬が見事にハナでゴールしたがガッチガチの本線で2着3着も決着し、安い配当で終わった。

まったく今まで興味のなかった競馬に2週で3万も使ってしまい、3週目の日曜日に15,000円を使ってしまえば給料日まで毎日カップラーメンか何かで過ごす覚悟をしなければならない状況であった。

しかも25日の給料日は月曜日だから、次の日曜日には馬券を買う金はもう無い。

3度目の正直とばかりに挑んだレースが第65回皐月賞であった。

何度も言う様だが当時のボクはまったくの競馬初心者であった。
馬柱を見て距離ごとに1番早いタイムにマーカーを塗ったり、上がり3ハロンのタイムが33秒台だけにマーカーを塗ったりしていた。

デビューから3連勝のその馬がどれほど凄いのかもまったく知らず、馬柱がマーカーで染まったので、その馬を軸にして3連単のオッズをいつもの様にエクセルでソートして、的中した時の払い戻しが36万円を超えるように馬券を買った。

 2005年4月17日(日)
 第65回皐月賞(GⅠ)
 一着 ⑭ディープインパクト
 二着 ⑩シックスセンス
 三着 ⑯アドマイヤジャパン
 ⑭-⑩-⑯ 三連単 70,780円

⑭-⑩-⑯の3連単馬券を5枚買っていたので353,900円になった。
財布の中には千円札が5枚と僅かの小銭だけになったボクはすぐにでも馬券を払い戻したい衝動に駆られたが、迷惑をかけた印刷工場の社長へ弁済する為に買った馬券である。
36万円には僅かばかり足りないが、この的中馬券を刷り直しの為に余分に掛かった紙代に充ててもらおうと思い翌日ボクは印刷工場の社長のもとへ向かった。

「何これ?」

「馬券です。昨日の競馬で的中した馬券です。払い戻すと35万ほどになります。ご迷惑をかけてしまったのでせめて紙代だけでもと思って……」

「これ獲るまでいくら使った?」

「…………」

「君の気持ちだけで十分だよ」

印刷工場の社長は的中馬券を受け取ろうとはせず。ガシャガシャと音を立てる印刷機の回る工場の奥へ行ってしまった。
(第5章へつづく)


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第4章 -02

2013.06.24 (Mon)
明日香さんの欠員を補充すべく翌朝からママは方々に携帯をかけまくり、店が開店する19時には新しいヘルプの女性が店にやってきた。

「ショウ君、留美ちゃん。今日からヘルプで働いてもらうミミちゃんよ」

「ミミです。よろしくお願いします」

ボクたちに挨拶したその女性は、可愛い名前だが明らかに五十代と思われる熟女であった。

ショートヘアーで瞳が大きく、小柄で派手な印象の美熟女である。
芸能人で言うと浅丘ルリ子みたいな感じでママとは違ったチャーミングな色気がある。

ママの予想は見事に的中した。

昨日の暇だったことが嘘のようにお店は客が途切れることなく忙しかった。
土曜日ということもあり大方は地元の常連客だが、杉本部長さんも部下の青年を連れて飲みに来た。

連れの青年が注文した鳥の唐揚げを二人が座るカウンターに出しながらボクは杉本部長に話しかけた。

「部長さん、土曜日なのに今日はお仕事だったのですか」

「そうなんだよ。こいつがヘマやって取引先に急遽納入しなきゃならないことになって大変だったよ」

「申し訳ありませんでした」

20代半ばと思われる部下の青年が杉本部長に頭を下げたが、それほどへこんでいる様子もなく、鳥の唐揚げをつまみ口の中に放り込んだ。

留美ちゃんが杉本部長の空になったグラスを取り上げ言った。

「部長はレモンサワーでいいよね。あなたは同じものでいいのかしら」

「はい、自分もレモンサワーです」

先週、バーコード頭に一文字のゲジゲジ眉毛の杉本部長が帰ったすぐ後に上がった留美ちゃんは中華料理屋の福龍で一緒に二人が話していた餃子を食べたのだろうか? 

その後ホテルに行ったのかボクにはわからないが、何事もなかった様子で振舞う二人に少し卑猥なものを感じた。

「お名前は? 何さんですか」

レモンサワーを出しながら部下の青年に留美ちゃんが聞いた。

「岡田です」

「わたしルミです。金曜と土曜だけここで働いています。よろしくお願いします」

身体の関係があると思われるコンパニオンと客に、その関係を知らない会社の部下という妙な構図だと思いながら、ボクは奥のボックス席で客にビールを注いでいるミミちゃんを見た。
初日なのにまるで何年も前からこの店で働いている様な馴染み具合だ。

客との会話までは聞き取れないが、何やら下品な下ネタを話しているようで客の中年男性が大声で笑いながらミミちゃんのノースリーブから出た細い二の腕にボディータッチを繰り返している。
だがミミちゃんは水商売の経験が長いようで客あしらいも上手だ。

そんなミミちゃんの様子を見ているとボクは別の方向からボクを見る強い視線を感じた。

客とカラオケでデュエットを歌っているママの視線であった。

その夜はヘルプのミミちゃんが入ってくれたことで、客もさばけて助かった。

店が暇な日は何か消化不良な感じで気持ちばかり疲れてしまうが、忙しかった日は店が終わるとホッとすると共に達成感を感じられる。

新しく入ったミミちゃんも店の中を賑やかにしてくれそうな存在なので来週の週末も楽しみだとボクは思った。

だが店が忙しいと自分のアパートへ帰るのが億劫になってしまう。
その夜も店から10分のママのマンションへ帰り、いつものようにママと一緒に風呂に入り、互いの背中を洗いっこした。

風呂上りにビールでお疲れの乾杯をしてボクたちはセミダブルのベッドで抱き合った。

キスをしながら互いの性器をまさぐり合い、反応が出てきたら交互に体を入れ替えシックスナインで互いの性器を舌で愛撫しあう。

還暦を過ぎたママの愛液は若い娘のそれと違い粘度はなくサラサラしている。

たっぷり15分ほど相互愛撫を楽しみ正常位からボクはママの中に挿入した。
仰向けに上を向いた状態のママは重力で頬の弛みが伸びて15歳は若返った表情になる。

15年前のママの事をボクは知らないが、きっとこんな顔だったのだろうと想像しながらママの中に奥深く入れながらキスをした。

ママは下から腰を動かし、中の一番感じる部分にボクのカリが当たるようにこすり付けてくる。
眉間に皴を寄せ3度目に昇天した瞬間に合わせてボクもママの中に放出した。

ボクとママは行為が終わっても硬度を保ったままのボク自身を入れたままおしゃべりをした。

「ねぇ。ミミちゃんてどう思う?」

「え、どうって…」

咄嗟に聞かれてボクは意味を理解できていなかった。続くと思うか? と聞かれたのかと思っていると。

「あんたミミのことずっと見ていたじゃない」

「……………」

「手を出したショウチしないよ!」と言って尻の下から伸ばした手でギュッと玉を握られた。ボクが好意の目でミミちゃんを見ていたことをママは気づいていたようだ。



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第4章 -01

2013.06.23 (Sun)
週末にヘルプでお店に入ってもらっているコンパニオンの明日香さんが失踪したという噂が飛び込んできたのは水曜日だった。

常連の客である蕎麦屋の大旦那・木村さんが何時ものようにビールを飲みに来た時に言っていた。
この蕎麦屋の大旦那・木村さんは町内の情報に精通した老人だ。

店は息子さんに任せているものの毎朝打ちあがったそばとつゆの味見は欠かさないそうだ。しかし、それが済んでしまえば町内をぶらぶらしている様子で、商店や町内の人間との立ち話による情報収集能力は侮れない。

木村さんの情報によると、パチンコ好きの明日香さんがタチの悪い筋から金を借りて返せなくなり失踪したのではないかとの噂だ。

果たして金曜日の今夜、明日香さんは出勤してくるのだろうかと思いながらボクは店で開店の準備をしていた。

開店時間の5分前。
胸元が広く開いた黒いワンピースを着た留美ちゃんは出勤してきたが、明日香さんはお店に出勤して来なかった。

携帯電話も電源が切られている様子で「お客様のおかけになった電話番号は電波の届かない場所か電源が……」というアナウスが流れるだけであった。

その日は金曜日だと言うのに暇な夜だった。
木村さんが帰ったあとにママのスナック「幸子」のドアを開けたのは二人だけであった。

23時半を過ぎると店の中はママとバーテン見習いのボクと留美ちゃんだけになってしまった。

ママは厨房で冷蔵庫の中の整理を始めた。
店で出すフードの類はだいたいがレトルト食品だ。

鳥の唐揚げもフライドポテトも、スペアリブやシュウマイなどなど。その殆どがレンジで温め皿に盛るだけのものだ。
付け合せのサニーレタスやプチトマトなどはスーパーで購入している。

これら業務用のレトルト食品を取り扱っている業者のカタログを見るとカレーの種類が多いことに驚く。

ビーフカレーにポークカレー、チキンカレーは当たりまえ。
赤カレーに黒カレー、キーマカレーや欧風カレーに白カレーまである。

カレーをフードメニューに加えたらどうかとママに提案したことがあるが、あっさりと却下された。
理由は炊いたご飯が余ったら毎日、自分たちは残り物の白米を食べることになるからだそうだ。

ソース焼きそばだけはレトルト食品があまりにもまずかったのでボクが調理して出している。

カウンターのスツールに腰かけ携帯で誰かとメールしていた留美ちゃんが、厨房にいるママの元に行って何か耳元で話し始めた。

「いいわよ。お疲れさま」

厨房から出てきた留美ちゃんがボクに「お先に失礼します」とペコリと頭を下げて店のドアから出て行った。

余りにも暇なので何かしら言い訳をして早上がりをしたのだろう。留美ちゃんが帰った後にママが言った。

「どうせ男と会うならウチの店に呼んで、飲んでからホテルでもどこでも行けばいいのに!」

やはりお客さんとホテルに行っていることをママも気付いていたようだ。何年も水商売で生きてきた人ですから……。

12時を過ぎても誰も店のドアを開けないので、いつもより早めに店を閉めた。
計算するほどの売上ではないのに、ママはいつものようにカウンターで電卓を叩きながら言った。

「木村さんの話が本当なら明日香はもう来ないかもね」

「………」

「困ったわ。明日は何だか忙しくなりそうだから誰かピンチヒッターでもいいから手伝ってくれる人を探さなくちゃ」

「明日も今夜みたいに暇なんじゃないの?」

「暇だった次の日は忙しくなることが多いのよ」



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第3章 -04

2013.06.22 (Sat)
月が明けた翌日。
店の開店準備をしていると昨日司さんが乗り込んだ黒いレクサスの運転席にいた若い組員と20歳になるかならないかのまだ幼さが残る青年が入ってきた。

「いつものことだけど、昨日若頭が入れたボトルと氷に…。ジンジャエールでいいのか?」

若い組員がくわえたタバコに火を点けながら、まだ幼さが残る青年に聞いた。

「自分ロックで大丈夫っス」

「本当か? 酔ってクルマの中で吐いたりしたら承知しねぇからなぁ」

「はい、大丈夫っス」

「よし。わかった。バーテンさんロックグラスをこいつに出してやってよ。俺はクルマだからコーラね」

毎月晦日にヤクザの司さんが来た翌日には、若い組員が来て司さんの入れたボトルを空けにくる。
前日の司さんと同様に開店前の早い時間にだ。
一般の客と鉢合わせしない為の配慮なのだろう。

幼さが残る青年はアイスペールから氷をロックグラスに放り込み焼酎を注ぎ一気に飲み干した。
ハーッと息を吐くと空いたグラスに焼酎を注ぎ立て続けに二杯目を煽った。
四杯目を一気に飲もうとして途中で咽た。

「おい。タツヤ無理すんなよ」

「大丈夫っス」

赤鬼の様に顔を赤く染めた青年が言った。

かなりアルコールが回っていることが容易に想像できた。
ボクは急いでグラスに氷水を作ってチェイサーを出した。

「もういいよ。バーテンさんお愛想して、あと残ったボトルは店で使ってよ。来月若頭が来たときにボトルが残っていると怒られるの俺たちだからさぁ」

ボクは頷いてお釣りと領収書を差し出すと、それを受け取った若い組員は酔って意識の朦朧とした青年を抱えて出て行った。

こうしてヤクザの司さんが入れた焼酎のボトルはお客が注文したレモンサワーやウーロンハイで使わせていただいている。
その焼酎のボトルが空になったのは常連の杉本部長さんが注文した3杯目のレモンサワーを出した金曜日であった。

杉本部長さんは足立区内に本社のある食品関連の会社の営業部長で見た目は50代と思われる。
小太りで頭髪は薄く、少ない髪の毛を右から左になでつけたいわゆるバーコードヘアで、薄くなった頭とは対照的に黒々としたまゆ毛は太く一文字に伸びている。

カウンターを挟んで留美ちゃんとこの界隈の飲食店ではどこが旨いかといった話題で盛り上がっていた。

「餃子だったら福龍が一番旨いだろう」

「私もお店終わって時々寄るんだけど、必ず餃子注文するよ。あのお店の餃子は美味しいよね」

「皮の焦げ目がバリッとして、中がジューシーでビールと合うんだよなぁ」

「わぁー、こんな話していたら食べたくなっちゃった」

福龍はママの店から歩いて5分ほどの場所にあるラーメン屋だ。
中国人と思われる年配の男が1人で店を切り盛りしている。
深夜3時まで営業しているので、ボクも店が終わったあとにママと何度か食事に行ったことがある。

杉本部長がワイシャツを捲くった毛むくじゃらの腕に巻きつけた時計をチラリと見た。

時刻は2時5分だ。

あらかた客は帰ったあとで、今はカウンターの杉本部長とボックス席に町内会青年部の3名をママがお相手している。

青年部と言っても全員が40代後半から50代のおっさんだ。

明日香さんは12時で上がる約束なので、カウンターの客が途切れたところで上がっている。

ボクがグラスや灰皿を洗っていると、杉本部長が留美ちゃんに何か目で合図をするのが視界の隅に見えた。
1メートルほど離れたボクの横に並んで立っている留美ちゃんがどんな反応を返したかは確認できなかったが、うなづいたのだろうか。

3杯目のレモンサワーを飲み干した杉本部長が言った。

「バーテンさんおあいそしてよ」

「はい、いつもありがとうございます」

ボクは洗い物の手を止めて、杉本部長の会計をした。

「じゃあ、ご馳走さん。ママまた来るからね」

「部長さんいつもありがとうございます」

テーブル席から立ち上がってママはドアの外まで杉本部長をお見送りした。
ママの後ろで杉本部長に手を振っていた留美ちゃんはドアが閉まるとポーチをもってトイレに消えた。
化粧を直して杉本部長と待ち合わせの中華料理店・福龍に向かうのだろう。

脂っこい餃子を食べてビールを飲むのになぜ化粧直しが必要なのだろうか。
きっとその後は杉本部長とラブホテルでセックスをしてお小遣いをもらうのだろう。

化粧室から出てきた留美ちゃんは「お先に失礼します」とボックス席の町内会青年部3人組のお客とママに向かってあいさつし店を出て行った。

店で働くコンパニオンが店を出た後に客と何をしようがボクには関係のないことだが、留美ちゃんが小太りでバーコードヘアにゲジゲジ眉毛の脂ぎった中年男に抱かれることを想像すると性的興奮を覚えた。

留美ちゃんに対してボクはまったく興味はない。
どうも年下ってのはダメなのだ。

自分はマザコンではないと思うが、恋愛や性の対象としては年上を好む傾向がある。
それは精神的な支えを女性に求めているからかも知れない。

ボックス席の町内会青年部3人組が帰り、店を閉めるとママが言った。

「久しぶりに福龍でラーメンと餃子でも食べる?」

「え、今日はあまりお腹空いてないし、餃子とか脂っこいものはちょっと。それにもうすぐ3時だから福龍も終わりの時間だよ」

ボックス席で客の相手をしていたママが杉本部長と留美ちゃんの会話を聞いていたとは思えないが、何と言うタイミングだろう……。

留美ちゃんが上がって30分以上は経つが、福龍の前で留美ちゃんと杉本部長が店を出てくるところにボクとママが鉢合わせしないとも限らない。

「そう。じゃあまっすぐ帰って早くお風呂入ってビールでも飲みましょう」

「うん。そうだね」

また留美ちゃんがバーコードヘアにゲジゲジ眉毛の脂ぎった杉本部長とベッドで絡むシーンを想像してしまい、一旦は治まった性的興奮が再び湧き上がってきた。

ママのマンションに帰ってからボクは風呂場でママと繋がった。
(第4章へつづく)


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第3章 -03

2013.06.21 (Fri)
店の開店準備をしていると仕立てのいいグレーのスーツに身を包み赤い花柄の派手なネクタイをぶら下げた中年の男性が入ってきた。

ヤクザの司さんだ。

毎月晦日の早い時間に必ず彼は来店する。
この日ばかりはママも開店時間前から店に出勤してくる。

司さんは新しい焼酎のボトルを注文してソーダで割ったチュウハイを舐めながらママに話しかける。

「ママ、景気はどうなの?」

「ちっとも良くならないわねぇ」

「何か困ったことがあったらいつでも相談に乗るからよぉ」

相談に乗るとはどういう意味なのだろうか?

揉め事だったら俺に任せろ出張ってカタをつけてやると言う意味なのだろうか。
それとも金に困ったらいつでも都合してやるという意味なのだろうか。

どちらにしてもヤクザを頼ってもロクなことはないことを百も承知のママはいつも軽く受け流す。

「はいはい、いつもお気遣いありがとうございます」

「あとさぁ、タチの悪い客とか居たら連絡してくたらすぐに若い者よこすから」

「大丈夫ですよ。ウチは常連さんばかりですから」

司さんは納得したように微笑んで頷きながら、財布から一万円札を取り出だすと席を立った。

ボクが慌てて会計をしようとすると。

「釣りはいいから。バーテンさんの小遣いに取っときな」

そう言うと司さんは店の前に止めた黒いレクサスの後部座席に乗り込み、若い組員がアクセルを踏み込み走り去った。

俗に言う“みかじめ料”などの取立ては一切ない。
司さんの組にはおしぼりを納入する業者や店内に飾る生花の業者からキックバックが入っているのだろう。


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第3章 -02

2013.06.20 (Thu)
印刷ブローカーの会社を辞めて次の仕事を探そうとしたが、求人誌で目に止まるのは印刷関連の営業職ばかりであることに気づいて自分でも驚いた。
たった2年だけ関わった仕事なのに無意識にまた同じ仕事をしようとしているのか?
いや、少しでも経験を活かせる仕事に就こうとしている自分がいた。

トップを争うまでの営業成績を残した自負はあったが、果たしてどこで使われているのか見たこともない印刷物の為に毎日終電まで働き、時には徹夜まですることに何の意味があるのか疑問に思い始めてもいた。

「ボクの自己実現って何だろう?」

社会人として会社に正社員として勤めることが重要であり、そこで出世すれば自己実現が出来るのではないかと思っていたが、果たしてそうなのだろうか?

経理担当者が横領して会社が傾き、給与が遅延する会社で自己実現が出来るのだろうか?

2年間で染み付いた印刷ブローカーの営業職という垢を落とす意味でも、社会人とか正社員という枠から外れた身分で過ごしてみようと思いアルバイトを探すことにした。

日曜日の新聞折込求人チラシで町田の自宅から自転車で通える距離にある工場のアルバイト募集を見つけた。

面接に行ってみると馬鹿でかい白い鉄筋コンクリートの建物だった。
大手電機メーカーの系列会社。そこは医療検査機器の組み立て工場だった。

採用されたボクには作業服と安全靴が支給された。
配属された第二製造部は超音波診断装置の組み立て部署で電源部分を手順書に従って組み立てる仕事であった。

朝8時半に始業のベルが鳴り、所属係長の簡単な朝礼の後に組立作業に入る。

基盤に電子部品を圧着する隣の部署からは「チュッ。チュッ。チュッ」いう音とコンプレッサーのブーンという唸り音が鳴り響く。

10時15分にチャイムが鳴るとその音が一斉に止まり十五分間の休憩に入る。

タバコを吸う者は喫煙所に集まり雑談をしながら一服する。

ボクのようなアルバイト採用の若い者もいれば、若くても正社員採用の者もいる。
妻帯者と思われる中年の正社員や頭髪に白髪が目立つ年配の正社員もみな同じ工場で医療検査機器の組み立てを行っていた。

給与は皆それぞれ違うのだろうが、行う作業は一緒だ。これが大企業の終身雇用制度であり、年功序列の社会なのだと思った。

昼には工場内の社員食堂で食事をした。
支払いは渡された社員証をレジに通すだけのキャッシュレスで、給与から差し引かれる仕組みだ。
料金も市街の飲食店と比べ格段に安かった。
従業員の福利厚生として一部を会社が負担しているからだそうだ。

午後は3時にチャイムが鳴りまた15分間の休憩に入る。
工場といっても空調の効いた構内は暑くもなく寒くもなく快適だった。
CTスキャナーやMRIなど大型の検査機器の組み立ては油圧式ジャッキや天井からぶらさがったクレーンで持ち上げるので重いものを担ぐわけでもないので汗はあまりかかない。

ある日、終業を知らせる五時のベルが鳴ったあとに構内で働く従業員の全員が社員食堂に集められた。

第3製造部の課長がマイクで言った。

「○○さんが本日で定年退職を迎えることになりました」

マイクを渡された年配の男性が全員に一礼し話し始めた。

「昭和40年△△電機に入社いたしまして、当時は計測機器の設計部に配属され、昭和62年にこちらに転籍になり通算三十五年間勤務させていただきました…」

従業員の拍手と花束を受け取って年配の男性が定年で退職した。

学校では6年とか3年とか大学なら4年とかで卒業があるが、社会に出てはじめて“定年”という会社からの卒業の瞬間をボクは見た。

アルバイトの身分の自分には関係ないと思っていたら、第2製造部の課長から社員にならないかと誘いがあった。

皆から拍手され花束を受け取り定年退職する35年後の自分の姿を想像してみた。

それまで年功序列で給与は徐々に上がるのかも知れないが、定年まで同じ組み立て作業をするのは自分には耐えられないと思った。
気づけば1年半も続けていた工場のアルバイトだが、このまま正社員になって同じ作業を続けても意味が無いと思い辞めた。


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第3章 -01

2013.06.19 (Wed)
バブル経済が崩壊した1991年。
当時ボクはまだ高校生だったのでバブル景気がどんなものだったかのよくは知らないし、バブルが崩壊してもボクの高校生活には何の支障もなかった。

日経平均株価が38,915円をピークに急落し、不動産が大幅に下落したニュースをテレビで見た覚えがあるが高校生だったボクにはあまり実感として記憶に残るものはない。

偏差値が平均よりちょっと下の……つまり、中の下ぐらいの都立高校を卒業して新宿区早稲田にある印刷会社に営業職で就職した。
印刷会社といっても印刷機械を置いてあるわけではなく、印刷の仕事を受注して印刷工場に外注する印刷ブローカーの会社だ。

社長を含め10人ほどの会社で営業目標という名のノルマを背負わされ朝九時から終電間際まで働かされた。

「みなさんはそれぞれに将来の夢や希望があるはずだ。ある物は将来独立して自分で事業を興したいと思い。またある物は趣味を生かして将来は生計を立てたいと思うのかも知れない。夢や希望を叶えることを自己実現と言います。しかし、今すぐに自己実現が出来るわけではありません。まずは、個人の自己実現の為には目の前にある課題をクリアしなければならない。会社が儲かることにより、みなさんの給与も上がり、それぞれの自己実現の為の原資を手にする事が出来る。つまり、個々の営業目標すら達成できない者に自己実現の道はないのだ!」

毎週末の夜には営業会議が開かれ、個人ごとの売上数字が経過報告され、月末のノルマ達成に向けて社長から激が飛ばされた。

社長は話に熱が入ると止まらなくなり、終電が過ぎても会議が終わらず、深夜二時三時まで続くこともしばしばだった。

印刷物と言っても、書店で目にする雑誌や家電量販店で売られている電化製品のカタログ、或いは駅に貼られているポスターなど誰もが目にする様な印刷物は大手印刷会社が扱う仕事で、ボクたち小さな印刷ブローカーの会社が受注できる仕事は見たこともない工業部品の取り扱い説明書や聞いたこともない専門学校の教材にパンフレット。
どこで配られているかわからないミニコミ誌などばかりであった。

それを小さなデザイン事務所や三流広告代理店から受注していた。

「目標をクリアできないのは取ってくる仕事が少ないからだ。つまり自分が担当している取引先が少なかったり、我が社との取引が休眠している取引先を放ったらかしているからである。少しでも時間があれば新規開拓や掘り起こしをして営業活動をし、もっと仕事を取らないとみなさんの営業目標は永遠に達成されません。みなさんの将来の自己実現の為にももっと頑張れ!」

今思えば自己啓発セミナーか新興宗教みたいな乗りがある会社であったと思う。
洗脳されることを嫌い辞めていく営業マンも多かったが、高校を卒業したばかりのボクは「会社とはこんなものだろう」と何の疑問も持たずに営業に励んでいた。

マスコミ電話帳やデザイン年鑑をみて片っ端から電話営業や、飛び込みの営業もやらされた。
高校時代からアルバイトに明け暮れて金を稼いでいたので、社会人になってアルバイトの頃よりも金を貰えることがうれしくて一生懸命働き、1年程で営業成績もトップを争うまでになった。

しかし、経理担当者が会社の金を横領する事件が起こり、給与が遅延し始めたので二年ほど勤めた会社を退職した。当時のボクは二十歳だった。


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第2章 -04

2013.06.15 (Sat)
今年の正月が明けた三回目の日曜日。
京成杯で3連単15万馬券を当てた時に舞いあがったボクはママと大喜びして散財した苦い経験があるからだ。

「見て、見て、ママ。15万馬券だよ!」

「え、どれ?」

ボクは50インチの液晶テレビの画面に映し出された3連単の配当金額を指差した。
そこには②-⑩-⑤156,000円と表示されていた。

「アタシを驚かそうとしてるでしょ? そんなの当たる訳ないじゃない」

ママは笑いながら信じていない様子であった。
ボクはむきになってパソコンを立ち上げJRAのPATにログインした。
そこには156,000円の払い戻し金額が既に入金されていた。

「あら、やだ。ショウちゃん凄いじゃない。これ本当なの? ウチのお店の一日の売上より多いじゃない」

「エヘヘヘヘ」

「今夜はショウちゃんの奢りで何か美味しいものを食べに行きたいわ」

ママが甘えた声で鼻を鳴らした。

「よ~し。旨いもんを食いに行こう!」

ママは寝室にある鏡台の前で化粧を始めた。
小さなボトルに入った化粧下地の液体をパフに染み込ませ、パタパタと顔を叩き、次にYとSとLのアルファベットが重なったロゴのコンパクトを開きファンデーションの粉を顔に塗り始めた。
そばで見ていたボクの鼻さきにデパートの化粧品売り場のような匂いが届いてきた。

大抵の男は女性化粧品の匂いが嫌いだと言うが、ボクはこの匂いが結構好きだ。

遠い記憶の中では、小学生の頃に授業参観やPTAの会合などで母親たちが学校に詰めかけると化粧品の匂いが教室の中に充満して、気持ちがそわそわしたことを覚えている。

まだ精通もない幼い頃であったが、体の中が熱くなる性的興奮に目覚めていたのかも知れない。

ボクはママのスウェットの首元から手を入れて、小粒の乳首をコリコリと揉んだ。

「だめよ。ショウちゃん。出かけるの遅くなっちゃうでしょ。それに腕にファンデーションが付いちゃうじゃない」

ママは笑いならが身体をよじった。

ボクとママはすっかり日の暮れた街にくりだした。
マンションから歩いて5分ほどのスーパーに併設されたショッピングモールに着くと、まずはATMで払い戻しの156,000円をおろして、二つ折りの財布に仕舞った。
奥行きが200メートルはあると思われるショッピングモールには1階から3階までに100店舗ちかい店がテナントで入っている。

「ショウちゃん。これ素敵だと思わない?」

ママがジュエリーショップの前で足を止めショウケースの中にあるネックレスを指差した。
シルバーのワイヤーにダイヤモンドと思われる透明に光る複雑に表面をカットされた石がぶら下がっている。

「よろしかったらお付けになってみますか?」

いつの間に近づいてきたのか。
黒いワンピースを着た女性店員が話しかけてきた。

「じゃあ、ちょっと見せていただこうかしら」

女性店員がショウケースの鍵を開け、ダイヤモンドの付いたネックレスを取り出し、ママの首にかけた。

「どうかしら? 似合う?」

「………」

ボクは店員がショウケースから取り出す時に25万円と書かれた値札を見て言葉にならなかった。

「凄くお似合いですよ」

ママはボクの方を見て「どうしよう?」と問いかけている。
ボクは言った。

「値段が高すぎるよ」

すっかり値段の事を気にしていなかったママも値札をみて驚いたようだ。

「あら、本当だわ」

そこへ透かさず店員が食い下がる。

「ネックレスをお探しでしたら、こちらにもう少しお手ごろなものもございます。どうぞご覧になってください」

店員にうながされママは店の中にあるネックレスを物色しはじめた。
30分ほどネックレスを付け替えては外し、その度に鏡を覗き込み、一番気に入ったトルコ石のネックレスを首にかけてボクの前に立つと。

「どう? お手ごろなの見つけちゃった」

値札をボクの前にひらひらと振りながら、悪戯っぽく笑う。38,000円。
先ほどの25万円から比べれば遥かに安い。
馬券も当たり気分も良く気持ちが大きくなっていいたのだろう。
そのトルコ石のネックレスをママに買ってあげた。

次に立ち寄ったブティックでもシックなグレーのツイードスーツを試着したママが素敵だと思ったから、迷わず買ってあげることにした。

3階のフードフロアに上がるまで寄り道をしたので、飲食店が一番混む夕飯時にさしかっていた。
どの店も入店待ちをする客の列が出来ていた。
リーズナブルな料理を出す店ほどその列は長い。
すしの店と天ぷらの店は他の店と比べて高いからか、客の列がない。

ボクたちは天ぷらの店に入って食事をすることにした。
店に入るとすんなりテーブル席に通された。
食欲をそそるゴマ油の香りが店の中に漂っている。
店のメニューで一番高い天ぷら懐石と冷酒を注文した。

ママは運ばれてきた冷酒を飲んで顔をほころばせた。

食事を済ませツイードスーツの入った大きな紙袋とトルコ石のネックレスが入った小さな紙袋を下げてマンションに帰ってきたのは夜の10時を過ぎていた。

久しぶりに競馬が当たり、気持ちが舞い上がってしまったようでほんの数時間で散財してしまった。

財布の中を開くと1万円札が6枚と5千円札が1枚に千円札が3枚に減っていた。

ママにトルコ石のネックレスやツイードスーツを買ってあげたことは後悔していない。
だが、そう度々馬券が取れる訳ではないので、当たった度に散財していては収支はプラスにならないのだ。

ちなみにボクがママの店で働いて貰うひと月の給与は手取りで185,000円だ。
きっと時給換算にすれば800から900円程度だろう。
(第3章へつづく)

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第2章 -03

2013.06.14 (Fri)
ママとリビングで焼きそばを食べながらテレビの競馬中継を観た。
パドックから地下馬道を通って馬たちが本馬場入場するシーンが映し出されていた。

「馬券買ったの?」

「うん。少しだけ……」

先日荒尾競馬のLOTOで当たった金は美智子さんとのデートと、翌日の中央競馬Win5に、それと平日に開催される南関4場の公営競馬であらかた溶けていた。

高校を卒業して18から幾つかの会社に転職しながらサラリーマンとして働いた頃は自分の将来に夢を持っていたが、所詮高卒で働く会社に夢や希望を託すのには限界があることを32歳の時に知った。

少し頭を冷やそうと派遣の仕事で働き始めると今度はリーマンショックで派遣切りになり、今では仕事にエネルギーを注いで何かを掴むより馬券に賭けることに夢中になっていた。

ファンファーレが鳴り、係員によって各馬がゲートに誘導され始めた。
ゲートが開き各馬が一斉に走り出す。

③オールアズワンがハナを切ったが“追い込み指数”が低いので4コーナーを回ったころには馬群に沈むことは予想済みだ。

⑤オルフェーヴルは中団よりやや後ろからの競馬になった。
4コーナーを回り直線を向いたところから馬群を抜け出し⑤オルフェーヴルが①ウインバリアシオンを一馬身以上引き離し見事一着になった。

 2011年5月29日(日)
 第78回東京優駿(GⅠ)
 一着 ⑤オルフェーヴル
 二着 ①ウインバリアシオン
 三着 ⑦ベルシャザール
 ⑤-①-⑦ 三連単 100,300円

「どうなのショウちゃん。当たったの?」

「残念。取れなかったよ」

ボクは嘘をついた。

⑤オルフェーヴルを軸に3連単で500倍以上の馬券を買ったので的中していることは間違いない。

ノートパソコンを開いてPATに配当の100,300円が払い戻されていることを確認したかったが、それを我慢した。

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第2章 -02

2013.06.13 (Thu)
ママが寝室からTシャツ姿で起きてきた。
Tシャツの裾からショッキングピンクのパンティーがわずかに見える。
店がお休みの日曜日はゴルフの約束でもないかぎり昼過ぎまで寝ている。
さすがに還暦を過ぎているので1週間の疲れが溜まるのだろう。

壁に掛けた時計は2時25分を差していた。
レースの発送まで約1時間ある。
ボクはノートパソコンを閉じて遅い昼飯を作ることにした。

玉ねぎを刻み、ピーマンも中の種を取って細切りにする。
人参はピーラーで皮を剥き、食べ安くさいの目に切った。
冷蔵庫から徳用サイズのウインナーを10本取り出し、適当な大きさに切り分ける。フライパンに油を適量に引きガスレンジを点火する。

「今日のお昼ご飯は何かしら?」

ママがキッチンを覗き込んで言った。

「焼きそばです」

「ショウちゃんは料理が上手だから助かるわ」

料理の勉強をした経験はないが高校時代には飲食店でアルバイトをしていたので包丁の使い方はいつのまにか身についた。
まかない飯を任されるようになり塩加減など味付けも自然と覚えた。

熱したフライパンの中に刻んだ野菜とウインナーを入れ炒める。
ジュッと水分の蒸発する音と共に玉ねぎの焼けるいい匂いが立ち登ったところでフライパンの火を弱火にする。

ママのマンションのキッチンはガスコンロの火口が3つある。
炒めた野菜のフライパンとは別にもうひとつフライパンを取り出し油を引いて熱する。

冷蔵庫の野菜室からキャベツを取り出し、ザク切りにする。
それを油に火が通ったフライパンに投入する。
ザーッとキャベツの表面にある水分が蒸発する音がする。
ボクはフライパンを揺すってキャベツが焦げるのを防ぐ。
キャベツはあまり火を通し過ぎるとしんなりとしてしまって食感が悪い。

適度にキャベツの歯ごたえが残るところで先ほど玉ねぎやウインナーを炒めたフライパンにキャベツを合流させる。もちろんフライパンの火は弱火にしたままだ。

キャベツを移して空いたフライパンに三食一袋の徳用焼きそばを袋から出してフライパンに投下し、素早く軽量カップに注いだ水を入れて焼きそばがフライパンにへばり付くのを防ぐ。
ここでモタモタしているとフライパンにそばがへばり付いて大変な事になってしまうのだ。

焼きそばに火が通ったところで三食一袋の徳用焼きそばに付いている粉末ソースを一袋だけ破いてそばにソースをからめる。
黄色いそばにソースがからみ褐色に変化する。

次に弱火で熱していた野菜を焼きそばの入ったフライパンに合流させ、残り二袋の粉末ソースも投下してそばと野菜を混ぜながら粉末ソースをからめる。
フライパンから食欲をそそるソースの香りが立ち登り完成だ。

皿に焼きそばを盛って、冷蔵庫から紅しょうがのタッパを取り出し、てっぺんに盛れば出来上がり♪

「あら、美味しそう」

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第2章 -01

2013.06.12 (Wed)
競馬新聞は東スポと決めている。
130円で芸能ネタからエロいアダルト情報まで載ってるし、週末には中央競馬全レースの馬柱までを網羅しているのだからコストパフォーマンスが高いのだ。

でもボクは競馬記者の予想や厩舎コメントは読まない。
見るのは調教ラップぐらいだ。

予想はノートパソコンの表計算ソフトを使って予想するのだ。
ヤフースポーツの出走表から近6走のラップタイムや4コーナーでの順位と着順の差を平均化したり、斤量と上がり3ハロンのラップを平均化したものを表計算ソフトのエクセルに入力し、それをソートして早い順に色を付ける。

縦軸に馬番、横軸には馬名、斤量、過去の走破タイムを距離別に入力する為に距離のセルをいくつか作る。

今日は3歳牡馬の重賞レース“東京優駿”通称日本ダービーが府中の東京競馬場で行われる。
日本ダービーとは3歳牡馬の1番強い馬を決めるレースだ。
どの競走馬も一生に一度しか出るチャンスはない。
また騎手にとってもこのレースを制すれば“ダービージョッキー”と呼ばれるようになる由緒あるレースだ。

そんな日本ダービーは距離が2,400メートルだが、まだその距離を経験した馬は少ない。
だから1,600メートル、1,800メートル、2,000メートルと2,200メートル、2,400メートルの5つの距離別での走破タイムを比較する。

走破タイムが他の馬より速いからといって1着が多いとも限らない。
ハイペースな流れのレースで走破タイムは速くても5着だったとかタイムが良くても勝ちきれない馬もいるのだ。
競馬とはそんなに単純なものではない。
レースの上手い馬と下手な馬という違いなのだろうか。

だから入着順位をポイント化した数値もエクセルに入力する。
18頭立てのレースで1着なら18ポイント。
16頭立てのレースで1着なら16ポイント。
2着なら18頭立ての場合は17ポイント、16頭立てでは15ポイント。
つまり出走頭数に対して1着でゴールしたら頭数の数をポイントとする。
2着ならば頭数マイナス1、3着なら頭数マイナス2をポイントとする。
掲示板に載る5着までをポイント加算する。
これをボクが予想対象とする近6走から拾い合計する。

この着順ポイント加算方式だと近6走に5着以内の着順がないとポイントはゼロとなる。
着順での評価点が無い馬をどう判断するか?

そこで次に4コーナーからゴールまでの順位差をポイントとして拾う。
4コーナーでの順位が10番目でゴールした着順が6着なら10引く6で4ポイントとする。
逆に4コーナーでの順位が6番目でゴールした着順が10着なら6引く10でマイナス4ポイントだ。
これも予想対象とする近6走の合計ポイントを“追い込み指数”としてエクセルに入力する。

それと忘れてならないのが上がり3ハロンの近6走の平均値だ。
ハイペースなレースもあれば逆にスローペースになるレースもある。
上がり3ハロンが速い馬が必ずしも勝つとは限らないがボクは上がり3ハロンを重視する。

18頭のデータ入力を終えたら、横軸のそれぞれの項目ごとにソートする。
それぞれに1番早い走破タイムや高いポイントに“ピンク”。
2番目には“オレンジ”、それに続くもの複数に“イエロー”と色付けをする。

1,600メートルで1番早い走破タイム⑥クレスコグランドの1分32.4にピンク。
次に早い⑫エーシンジャッカルの1分33.1にオレンジ。
1分34.2までの3頭にイエローを付けた。

1,800メートルで1番早い走破タイムは⑤オルフェーヴルだ。
2,000メートルと2,200メートルで共に一番早い走破タイムを出しているのは⑰ユニバーサルバンク。
着順ポイントが1番高得点なのは②サダムパテックだ。

着順ポイントの高い②サダムパテックにするか、2,400メートルの青葉賞で勝っている①ウインバリアシオンを軸にするか?
或いは⑰ユニバーサルバンクは2,000メートルと2,200メートルで共に1番早い走破タイムを出しているが着順ポイントが低いので軸にするには心もとない。

迷った挙句、皐月賞に続きGⅠ2勝が懸かっている⑤オルフェーヴルを軸に3連単マルチで、着順ポイントが低く上がり3ハロンの平均が2番目に遅い③オールアズワンと“追い込み指数”が低い④リベルタス、⑬ロッカヴェラーノ。
1,600メートル以上のレース経験がなく単勝オッズも100倍以上の⑫エーシンジャッカルなど4頭を切って、500倍以上の37点の馬券をネットのPATで買った。

JRAのPATはマルチ馬券の組み合わせをオッズ順位に並べ替えて選択買いが出来るので便利だ。
これが南関四場のSPAT4だとそうはいかない。
だが、人気順位やオッズ順位などの検索は南関四場のサイトの方が優れている。
なぜならばJRAのPATでは人気順位は300位までしか表示されない。

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第1章 -06

2013.06.11 (Tue)
気分を切り替えて夕飯の買い物にマンションから歩いて5分ほどの場所にある大手流通チェーンの複合スーパーへ向かった。
フリースで一世を風靡したファストファッションの店舗をはじめ大小様々な店で構成されたショッピングモールと映画館も併設された大きな建物だ。

日曜日の午後ということもあり家族連れの客が多い。
1階のスーパー入り口でショッピングカートに買い物カゴを乗せて食品売り場で挽き肉と玉ねぎとニンジン、それに付け合せのキャベツとトマトをカゴに入れた。

ほぼ毎週買い物に来ているので、店内のレイアウトが頭の中に入っているから買い物は早い。
牛乳と卵は冷蔵庫にあることを出かける前に確認済だ。

買い物から戻ると、玉ねぎとニンジン少々をみじん切りにして、プラスチックのボウルの中に入れる。
そこへ先ほどスーパーで買ってきた牛と豚の合い挽き肉も入れ、生卵を一つ割って落とす。
次に計量カップにすり切り一杯にパン粉を入れてパン粉がこぼれないように静かに牛乳を注ぐ。
牛乳の浸ったパン粉も野菜と挽き肉の入ったボウルの中へ投入し、計量カップにへばり付いたパン粉を少量の白ワインで落としボウルに注ぐ。
塩コショウとソースにケチャップを適量に入れてボウルの中身を混ぜ合わせる。
ねばりが出るまでひたすら混ぜる。

フライパンに油を引きハンバーグを焼き始めた。
中火でフライパンに蓋をしてキッチンタイマーを4分にセットした。

その合間にキャベツをスライサーで千切りにして、トマトを四つ切りにして皿に盛った。

キッチンタイマーがピピピッと鳴り出し四分が経過したことを知らせるとボクはフライ返しでハンバークを裏返しにする。
ジュ~ッと音がして肉が焼ける旨そうな匂いが立ち登る。

炊飯器のご飯も炊きあがり、ハンバーグが焼けた頃には日が暮れていたが、ママは帰ってこなかった。
朝7時に出て行って既に12時間以上が過ぎている。

どこのゴルフ場に行ったのか知らないし。ボクはゴルフをやったことがないので果たして朝から18ホールを回るのにどのぐらいの時間がかかるのか知らない。

最初にママと同棲生活と書いたが、実は店から30分、ママのマンションから20分の場所にボクはアパートを借りている。

築39年の木造アパート。
間取りは六畳と四畳半の二間に猫の額ほどのキッチンと和式のトイレ。
風呂はない。
家賃は3,7000円だ。

ママと身体の関係ができたきっかけはボクが風呂なしのアパートに住んでいることを知り、ママが風呂に入ってゆくように勧めてくれ自分のマンションに招きいれてくれた夜からだ。

今では週の半分以上はママのマンションで寝泊りしているが、3日に1回はアパートに帰っている。
今夜はママが帰ってきたらアパートに戻ろうと思っていたが帰ってこないのである。

夜の8時を過ぎたので冷めかけたハンバーグを一人で食べた。

食器を洗って片付け、皿に盛ったママの分のハンバーグにラップをかけて冷蔵庫に仕舞った。

“夕飯に作ったハンバーグが冷蔵庫に入っています”

書置きをしてアパートに帰ろうとした時にママが帰ってきた。

「ショウちゃん。ただいま~ぁ」

ママはどさりとゴルフバックを玄関に置いて上機嫌でリビングに入ってきた。
ピンクのカットソーと白いパンツのゴルフウェアでサンバイザーと大き目のサングラス。
今朝は目を閉じたままママを見送ったのでどんな服装で出かけたのか見なかった。

「お帰りなさい」

「もう久しぶりのゴルフで疲れちゃった。はい、これお土産」

目の前に差し出されたのは折り詰めの鮨だった。
夕飯にハンバーグを作ったことも、書置きをしてアパートに帰ろうとしていたことも話す前に……。

「今夜も泊まっていくんでしょ」
と首に腕を回されキスをされた。
ママの息は酒臭かった。
(第2章へつづく)

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第1章 -05

2013.06.10 (Mon)
「ショウちゃん。ママ、ゴルフに行ってくるからね。お洗濯お願いね」

日曜の朝7時にママに起こされた。

「うん。わかった。気をつけていってらっしゃい」

ボクは目を閉じたままママを見送った。
美智子さんの豊かな胸に顔を埋め勃起した乳首を吸っている夢を見ていた。

昨日は昼前に美智子さんと待ち合わせして一緒にランチを食べて、ラブホテルに行った。バスタブに湯が溜まるまでベッドでキスをしながらお互いの感じる部分を触り合い愛撫を楽しんだ。

ジョボジョボとバスタブに湯が注がれる音が止まり、湯が溜まるとボクたちは一緒に風呂に入った。
シャボンの泡で互いに性器を洗いっこする。
ボクのペニスは勃起しているし、彼女のアソコも愛液でぬめっていた。
シャボンを流しバスタブの淵に腰掛け、ボクは勃起したペニスをしゃぶらせた。
喉の奥までストロークするディープスロートだ。

ベッドでは「子供が出来ない身体」だから、そのまま入れてと言う美智子さん。
若い時に知らなかった性の快楽を若いときの分まで取り戻そうとするかの様に貪欲に求めてくる。

そんなに貪欲になっても、ただのセックスだから得るものなんてないんじゃないのかなぁ。とボクは思った。

ラブホテルを出るまでの三時間で二回交わった。

そんな昨日の事を思い出しながらボクは昼過ぎに起きて洗濯機を回し、冷蔵庫の中の残り物で適当に昼飯を作って食べた。
脱水の終わった洗濯ものをベランダに干す。
ママの赤いTバックとボクのBVDのブリーフも干した。
マンションの10階だから下着泥棒の心配はない。

ノートパソコンを立ち上げ中央競馬のWin5に投票する事にした。
Win5とは当日のメインレースを含む5レースの1着馬を全て当てる投票方法だ。
今年の四月から始まって早くも500万円以上の配当が飛び出している。
ちなみに最高配当額は2億円だ。

昨日、美智子さんとラブホテルを出た後に店に入る途中で買った東スポの競馬欄を見ながらWin5を48点買った。

最初の京都10Rは1番人気のエアラフォンで決まりWin1は通過したが、2レース目の東京10Rで5番人気の馬が1着になりボクのWin5は終わってしまった。

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第1章 -04

2013.06.09 (Sun)
8時を過ぎたころから店は混みだし、カウンターは常連さんで一杯になり、ボックス席ではサラリーマンのグループが留美ちゃんに酒を飲ませ一緒にカラオケを歌い始めた。

昼間にネットで荒尾競馬のLOTOに投票していたのをボクはすっかり忘れていた。

LOTOとは後半の5レース全部の1着を当てる投票方法だ。
携帯で公営競馬の投票サイトにアクセスして確認すると見事に的中していた。
24点、2,400円を投下して配当が45,880円もついた。

今年から始まったJRAのWin5ならもっと配当がついたのだろうが、どのレースも頭数が少ないし、平日の昼間からネットで九州の公営競馬に投票する物好きは少ないから、投票総額が200万そこそこしかないので的中しても配当が安いのは仕方あるまい。

携帯をズボンのポケットにしまいちょっとした小遣いが出来たことをひとりでこっそりと喜んでいるとポケットの中で携帯が振動してメールの着信を知らせていた。
メールは美智子さんからだ。

〈ショウ君、明日逢えない?〉

〈どうしたの急に…?〉

〈明日約束していた体育教師が急にキャンセルになって空いちゃったから〉
(なん~だ。代打かぁ)

美智子さんとは携帯のSNSサイトで三ヵ月前に知り合った。
テレビCMで「無料」でゲームができることをウリに宣伝している携帯のSNSサイトだが、ゲームでアイテムを購入する為にはポイントが必要で、最初の登録時にあったポイントを使ってしまえば、新しい会員を勧誘するとポイントが貰えるとかって仕組みらしく、ボクも或る女性に無理やり入会させられたのであった。

小さな液晶画面の中で魚を釣ったり、花を育てたりする子供だましみたいなゲームには興味がないので、ボクはもっぱら出会いの方に専念した。

美智子さんは証券会社のコールセンターで派遣社員として働いている人妻OL、と言っても歳は49歳。子供はいない。

2年前に携帯のサイトで知り合った男と会ってホテルでセックスしてから女の歓びに目覚めてしまい。今ではセックスフレンドが5~6人いるヤリマンの人妻OLだ。

同い年の旦那さんは就職しても続かず転職を繰り返してきたが不況と年齢的な問題で今では派遣の仕事しかなく収入が不安定だと溢していた。

そんな美智子さんのセックスフレンドのメンバーにいつしか組み込まれたのか代打としてお誘いのメールがきた。
荒尾競馬のLOTOが当たり小遣いも出来たので美智子さんと会うことにした。

〈わかりました。明日逢えますよ〉

ボクは手短に返信して携帯をズボンのポケットに戻した。

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第1章 -03

2013.06.08 (Sat)
ママのマンションから歩いて10分ほどの場所にあるスナックに出勤するのはいつも夕方の5時半だ。店の名前は「幸子」。これはママの名前だ。
6人ほどが座れるカウンターとボックス席が2つのどこにでもある小さなスナックだ。

普段はママとバーテン見習いボクのふたりで店を切り盛りしているが、週末の金曜と土曜にはヘルプのコンパニオンが二人入る。
スナックは風営法の適用外であるから厳密には客席での接待は禁じられているが、客とカラオケを一緒に歌ったりボックス席では隣に座って客から酒をご馳走になったりしているのが現状だ。

「おはようございます」

店の準備をしているとコンパニオンの留美ちゃんが白いブラウスに黒のタイトスカートで出勤してきた。
留美ちゃんは27歳。
バツイチで子持ちだ。
昼間は子供を保育園に預けて埼玉の工場でパートとして働いているらしい。
週末は実家のお祖母ちゃんの家に子供を預けてお店に出勤してくるのでラストまで働いてもらっている。
酔ってくると客にしなだれかかり、密着度が増すのが特徴だ。
客と何やらヒソヒソ話をして、携帯のアドレスを教えあったり、水商売の業界用語で言うアフターで店が終わった後に客と食事に行ったりすることも度々だ。
店の客とホテルに行って金を貰っているのではないかとボクは思っている。
なぜならば留美ちゃん目当てで週末に訪れる客も数名いるからだ。

もうひとりのコンパニオン明日香さんはいつも開店時間のギリギリに出勤してくる。
ママは厳しいので1分でも遅刻すれば罰金を取るのだが今日は美容室に行ってまだお店に来ていないので、5分遅刻してやって来た明日香さんは助かった。
小さなお店なのでタイムカードは置いてないし、ボクもあえて告げ口などしない。

「もう切り上げようと思ったら確変引いちゃって……。止まらなくなっちゃってどうしようかと思ったのよ」

と嬉しそうに話す明日香さんは40代の人妻だ。
やや中年太りの否めないパチンコ好きで、豪快に大声で笑いよくしゃべる女性だ。

美容室で髪をアップにしてきたママが出勤してきた。
薄いブラウンに染めた髪が艶を帯びている。
白髪染めをしたので時間がかかったのかも知れない。

「ショウ君、タバコ買ってきて」

ママは店に人がいる時はボクのことを「ショウ君」と呼ぶ。

「はい、わかりました」

ボクは店の買い置きのタバコを買いにコンビニへ向かった。
店で買い置きしているタバコはマイルドセブン、セブンスター、キャビンマイルド、セーラムライトなど8銘柄だ。
震災の影響で工場がストップした為、コンビニのタバコを置いてあるショーケースに空きが目立った。
マイルドセブンもセーラムライトも売り切れだ。
いつもはカートンで買うのだが、「お一人さま二個まで」の貼り紙があるので仕方ないからセブンスターとキャビンマイルドを二個づつ買って店に戻ると常連の木村さんがビールを飲みながらカウンターを挟んで明日香さんと話していた。

木村さんは店の近くにある蕎麦屋の大旦那さんだ。短く刈った髪は真っ白で、歳は70を越えていると思われる。
店は息子さん夫婦に任せているそうだが、毎朝の仕込みには立会い打ちあがったそばとつゆの味見は欠かさない。
この時間もまだお店は営業してると思われるが、大旦那の木村さんは早めに店の仕事を切り上げてビールを飲みにやって来る。

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第1章 -02

2013.06.07 (Fri)
「高木社長から今度の日曜日にゴルフに誘われちゃった」

バスルームで背中を洗ってもらっている時にママが言った。高木社長とは建設会社の社長でお店の常連さんだ。歳は50代半。いつも社員を4~5名連れて金を使ってくれるママにとっては大切なお客様だ。

「また接待ゴルフのコンパニオン役?」

「男ばかりのコンペじゃ花がないからって……。久しぶりだから練習しなくちゃ。明日は打ちっぱなしに行くからショウちゃんも一緒に行きましょうよ」

「ボクはゴルフなんてやらないよ」

「じゃあ、美味しいものご馳走してあげるからクルマ運転してよ」と言いながらママがスポンジをボクに渡した。こんどはボクがママの背中を洗う番だ。

小柄で細身のママの背中は小さい。
泡のついたスポンジで洗いながらボクは空いている左手を前に回しママの小粒な乳首を愛撫する。
ママはボクの股間に手をのばしフニャリとしている陰茎をつかんでシゴきはじめた。石鹸の泡が付いた手でシゴかれると気持ちいい。ママが固くなりはじめた陰茎をシゴきながらもう片方の手でボクのアナルを刺激しはじめた。

「ママがいたずらするから大きくなっちゃたよ」

「あら、本当だ」

シャワーで石鹸を流すとママが目の前にしゃがみ勃起した陰茎を口に含んだ。ボクは仁王立ちの状態で上からママがフェラチオをする表情を見るのが大好きだ。
決して上手ではないが味わうように舐めたり舌で愛撫するママの表情が愛おしく感じる。フェラチオをされながら見下ろしたママの伸びた髪の生え際に白髪が目立った。そろそろ美容室で白髪を染めに行くころだ。

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第1章 -01

2013.06.06 (Thu)
店が終わってボクは片付けをしていたい。
グラスや灰皿を洗って、空いたビール瓶をビールケースに詰める。生ゴミは大して出ないが、煙草の吸殻はもの凄い量だ。

「ショウちゃん、アタシ先に帰ってるから」

カウンターで今日の売上を数え終わったママが言った。

「うん、掃除とゴミ出して、ちゃんと戸締りするから大丈夫だよ」

「お風呂にお湯溜めておくね。一緒に汗流して早くビール飲みましょう」

「うん、そうだね」

五月に入ってまだ二週間ほどの今は、冷房を入れるほど暑くはないが、身体を動かすと汗ばむ。

ボクがママのスナックで働き始めて二年半。働き始めて半年が過ぎた頃にママと身体の関係ができた。ママは61歳、ボクは36歳。25歳差の年の差カップルだ。
スナック・ママとバーテン見習いボクの同棲生活がこうして始まった。

東日本大震災の被害と言えばカウンターの上に並べてあったグラスが床に落ちて割れたぐらいで大きな被害はなかったが、お店のあるここ足立区は計画停電の対象区域で先月は度々開店休業を余儀なくされた。
ただでさえ景気が悪いのに、大震災、津波被害、原発事故(この時点ではメルドダウンしてることは一切報じられていなかった)による電力不足。日本経済がますます悪くなる不安な気持ちで迎えたゴールデンウィークも営業していたが客の入りは大したことはなかった。

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