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スナック・ママとバーテン見習いボクの同棲生活

オリジナル小説です。

第7章 の記事一覧

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第7章 -03

2013.07.04 (Thu)
店は8時を過ぎた頃から混みだした。
週末ではないので今夜はヘルプの留美ちゃんもミミちゃんも居ない。

ボックス席は作業着を着た3人組みの客とスーツ姿の4人組みの客で埋まった。
カウンターには近くの喫茶店のマスター小島さんと会社員の小糸さん。
ご近所の福田老人が相次いで来店しカウンターも半分が埋まっていた。

ボクは作業着を着た3人組みの客が注文した焼きそば3人分を厨房で作り、スーツ姿の4人組みが注文した鳥の唐揚げとフライドポテトを電子レンジで暖め皿に盛って出した。

店のドアが開いてまたひとり客が入ってきた。常連の大塚さんだ。

「いらっしゃいませ」

カウンターのスツールに座った大塚さんにママがタオルウォーマーから取り出したおしぼりの封を切って、広げた状態で大塚さんに差し出した。
銀縁のメガネを外しおしぼりで顔を拭くと大塚さんが言った。

「今日は暑かったなぁ。ウチの会社なんて節電だからってエアコンの温度が28度に設定されちゃって暑いったらありゃしないよ。おまけに天井の蛍光灯は半分抜かれてるし、廊下なんか明かり点けないから昼間でも薄暗いしさぁ。あ、俺レモンサワーね」

「私の会社も同じですよ。冷房弱めに点けて、あとは扇風機で我慢しろって会社から言われてます」

小糸さんが言った。
下町のスナックは常連客ばかりなので、カウンターでは客同士が自然と会話を交わす。

注文したレモンサワーをひと口飲み大塚さんが続けた。

「街も節電ムード一色だしね。帰りにパチンコでもして涼もうと思ったら早仕舞いだって言うし。コンビニも看板の明かり消してるし、ビルの上にある広告の看板も照明が消えてるから街が全体的に薄暗いもんな」

「え、コンビニも看板を消してるんですか?」

ボクは思わず大塚さんに聞いてしまった。
店に入る時間はまだ外が明るいので気づかないし、店に入ってしまえば閉店まで外に出ることはまずない。

「駅前なんかも薄暗くて、まるで田舎の駅前みたいだよ」

「そうですよねぇ。夜でも街のネオンや照明で明るいのが当たり前の中で生活していたことに気づかされますね」

「なんだか全体的に自粛ムードで景気がますます悪くなりそうだよな」

小糸さんの隣に座っていた喫茶店のマスター小島さんも会話に加わった。

「ウチの店なんか震災後、ランチを食べに来ていたお客さんが三割減りました」

震災から半年近く経過したが、被災地ではまだまだ復興の目途は立たず、社会全体に閉塞感みたいなものが漂っているように感じた。

「リーマンショックからなんとか立ち直ったと思ったら今回の震災だからなぁ。バブル崩壊からの失われた20年なんて言うけど、もう2度と日本の景気は良くならないんじゃないかと俺は思うよ」

リーマンショックという言葉を聞いて、3年前に働いていた派遣先で失業した時の事をボクは思い出した。
いわゆる、「派遣切り」というやつだ。
(第8章へつづく)


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第7章 -02

2013.07.03 (Wed)
店のドアを開けるとタバコのヤニと締め切った部屋特有のすえた臭いが充満していた。
室内の温度は30度を遥かに超えているのだろう。

ボクは壁にあるエアコンのスイッチをオンにして、室温を22度に設定した。
震災により原発が止まって電力不足が危ぶまれ、連日のようにテレビではピーク時の予想最大電力が何万キロワットだとか、節電を呼びかけるアナウンスが繰り返されていたが、客商売をやっているこちらとしてはそんなことに構ってはいられない。

室内の空気を入れ替える為に換気扇を回し、入り口のドアと裏の厨房にある勝手口のドアも開けた。

酒屋が空いたビールケースを引き取って、新しいビールケースとクラブソーダを置いていった。

ボクはフロアーに掃除機をかけ、ボックス席のテーブルとカウンターを布巾で水拭きし、次におしぼりをタオルウォーマーに補充した。

店内の空気も入れ替わったみたいなので、裏の厨房にある勝手口と店の入り口のドアを閉めた。
一服してから店の看板に灯りを点けようと思いタバコを吸っていると店のドアが開いた。
短く刈った白髪頭と紺色の作務衣姿は蕎麦屋の大旦那・木村さんだ。

「ちょっと早かったかなぁ」

「いらっしゃいませ」

ボクは吸いかけのタバコをもみ消して、手を洗い、タオルウォーマーから温まっているおしぼりを選んで木村さんに出した。

夏場は冷蔵庫で冷やしたおしぼりを出したらどうかとママに提案したことがあるが……。

「バカ言ってんじゃないわよ! おしぼりは温かいものに決まってるじゃない」と言われ、カレーライスの時と同様に即却下された。

木村さんはおしぼりを受け取ると、それを持ったまま手を叩きおしぼりの入った封を破った。
「パン!」と破裂音が静かな店内に響いた。

ボクはBGMをつけてない事に気づいたので有線放送のスイッチを入れ、カラオケのモニター画面にも電源を入れた。

「行儀悪くて済まないね」

笑いながらおしぼりを取り出し、開いたおしぼりで顔を拭いて、次に首筋の辺りまで垢を落とすように拭き始めた。

「あ~、さっぱりしたぁ」

「お疲れ様です」

ボクはコースターに乗せたグラスを木村さんの前に置き、栓を抜いた瓶ビールを注いだ。
グラスのビールを目の前に上げ軽くお辞儀をして、ひと口飲むと木村さんが話し出した。

「そ~いやぁ。ここで働いてた女。なんて言ったっけ?」

「ミミさんですか?」

「違うよ。あんなババアじゃねぇよ」

ミミちゃんがババアと呼ばれてボクは少しムッとした。
ミミちゃんはババアなんかではないとボクは思うからだ。

三週間前にボクはミミちゃんを抱いた。

婦人会の団体客があった時にボクがメールアドレスを教えてから、ミミちゃんと毎日メールをするようになっていた。
そして、翌週の土曜日に店が終わってから駅前の朝まで営業している居酒屋で一緒に酒を飲んだ。
「今夜は自分のアパートへ帰る」とママには嘘をついてだ。

ボクは仕事中店では一切酒を口にしないので素面であったが、ミミちゃんはボックス席の中年サラリーマン2人組みに飲まされてちょうどよい塩梅に酔っていた。

居酒屋ではレモンサワーを飲みながら焼き鳥に肉じゃが、フライドポトテにまぐろの刺身とおしんこなどをつまみながら二人で酒を飲んだ。

ミミちゃんは55歳で結婚しているが今は旦那さんと別々に暮らしていること。
平日の昼間は草加の運送会社で経理事務の仕事をしていること。
子供はいないこと。
ママが日本橋でお店をやっていた時に、そこで働いていたことなどを聞いた。

彼女は厚化粧をしている訳ではないのだが、大きな目とシャープな顎のラインが派手な印象を与える。
笑うと目じりにカラスの足跡の様な皺がパッと広がる。

2時間ほど飲んで外が明るくなりはじめたので居酒屋を出た。

二人ともなぜかあまり会話もせず、国道沿いを東に歩き出した。
ボクのアパートとは逆方向だし、ミミちゃんの部屋とも多分方向は違うはずだ。

10分ほど歩くとラブホテルの大きな看板が見えた。

ボクが国道沿いを東に歩き出した時に、ここへ向かっているのだろうと彼女も気づいたそうだ。
事が済んだベッドの上で彼女がそう言った。

そんなミミちゃんと過ごした夜の事を思い出しながら、木村さんに言った。

「ミミちゃんでなければ明日香さんのことですか?」

「そうそう。明日香ってんだっけ、あのパチンコ好きのオンナ」

「明日香さんはもうウチの店には来ていませんよ。彼女が失踪したみたいだ。と木村さんが教えてくれた週末から一切連絡も取れないし。だから新しくミミさんがウチの店に入ったんですよ」

「そうだったか。あのババア妙に慣れた感じだから、もう何年も前からここで働いてると思っちゃっていたよ」

またミミちゃんをババアと呼ぶ木村さんに憤慨しながら聞いた。

「で、失踪した明日香さんがどうしたのですか?」

「それがよーぉ。先週ひょっこり戻ってきたらしいんだよ」

「借金取りから逃げていたのですよね?」

「そうじゃなかったみたいだなぁ。俺も人から聞いた話だから詳しくは知らんが、パチンコ屋で知り合った若い男とイイ仲になってたみたいでよぉ。月のモノがこなくて泡食って逃げ出したらしいんだなぁ」

「え、デキちゃんたんですか? 明日香さんって旦那さんとお子さんもいるのですよね?」

「旦那はどこだったか一流企業のサラリーマンで、子供は高校生の娘と中学生の息子がいるはずだよ」

「浮気していた男の子供がデキちゃったから、家族を置いてその男のところへ行っていたのですか?」

「さぁーなぁ。どこへ行っていたのかは知らんが、孕んだかと思っていたら、月のモノが遅れていただけだったみたいでよぉ。アレが来たから戻ってきたらしいんだ」

明日香さんに付き合っている男がいたとは知らなかった。
留美ちゃんと違いお店でも客とベタベタする事はなく、大きな声でよく笑いおしゃべり好きのサバサバしたおばさん。といった印象だったので彼女に色恋があるなんて想像もしたことがなかった。

「この店でもうひとり若い姉ちゃんが働いているじゃん」

木村さんは町内の事情通であるが、年のせいか人の名前を忘れるクセがあるようだ。

「留美ちゃんですか?」

「そうそう、留美ちゃんが二、三日前だったかなぁ。俺の店に蕎麦食いに来たんだよ。男と一緒でなぁ。確かこの店で見たことある男なんだけど思い出せねぇんだよなぁ」

「杉本さんじゃないですか? 食品関係の会社で部長さんやっている……」

「あんなハゲ親父じゃないよ。もっと若い男だよ。確かハゲ親父と一緒に飲んでるのを見たことあるなぁ」

「じゃあ岡田さんじゃないですかねぇ。杉本さんの部下で何度がご一緒にお見えになっていますから」

「あ~、だからこの店で見かけた顔だったのか。俺の勘だが、留美ちゃんとその岡田って男はデキてるみたいだなぁ」

「デキてるって?」

「どう見ても恋人同士って感じだったぞ」

最初は杉本部長に連れられて初めてこの店に呑みに来た岡田さんであったが、最近はひとりで土曜に飲みに来ることが何度かあった。その時に留美ちゃんと親しくなったのであろう。

店のドアが開いてママが出勤してきた。
喪服を脱いだ後にシャワーを浴びて汗を流し化粧を直したママは白いノースリーブのワンピースで現れた。
腰に巻いた細い黒革のベルトがママのウェストの細さを強調している。

「あら、木村さん今日はお早いのね」

「こう毎日暑くちゃ日が暮れるまでやってらんねぇよ」

ボクは先ほど木村さんから聞いた明日香さんの話をママに話そうか迷っていると……。

「パチンコ好きのオンナ、何て言ったけ……」

「明日香さん」〈本当に名前を覚えない人だなぁ〉

「そうそう。明日香ってんだっけ、あのパチンコ好きのオンナが……」

木村さんは先ほどボクに話した話をまるで録音したテープレコーダーのようにママに話し始めた。

「あの人。アタシの処には一切連絡してこないのよ。まぁ、そんな事情だったのなら彼女も大変だったのだろうし、黙って来なくなったから連絡しづらいのかもね」

ママは辞めていった人間にはあまり興味がないようであった。

ママに明日香さんの事を話すと気が済んだみたいで木村さんは帰って行った。


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第7章 -01

2013.07.02 (Tue)
外はギラギラとした夏の日差しが照りつけているが、ボクは冷房の効いたママのマンションで一人パソコンの画面に見入っていた。
浦和競馬の9R、C1クラスのダート1500メートル。

1番人気の馬が4コーナーを曲がると他の馬とは圧倒的な脚の違いで大外から五頭をごぼう抜きしてゴール前を駆け抜けた。

2着は4コーナーまでハナを切って引っ張った3番人気の馬が粘り一、2着はボクの予想通りであったが、3着に7番人気の馬が入ってネット投票の残高がゼロになった。

僅か8頭立てのレースなんて買わなければよかったと思っても後の祭りだ。

競馬場に行かなくてもネットで馬券が買えて、公営競馬はレースまでパソコンの画面で見られるのだから便利な世の中だ。
便利さゆえに昼飯を食べに出て、1万円を崩した9,000円をコンビニのATMで入金し、いつものようにエクセルで予想をはじめて、7レースから馬券を買ったがさっぱり当たらない。

あと二鞍レースがあるが、外まで出てコンビニのATMに金を追加する気力もないし、店に出勤する時間が近づいていた。
パソコンを閉じてタバコに火を点けると玄関のチャイムが鳴り、喪服を着たママが帰ってきた。
ドアを開けると黒い着物を着たママが額に汗を浮かべて立っていた。

「ショウちゃん、お塩。お清めしないと」

ボクはあらかじめ玄関先に用意しておいた小皿に盛った塩をつまみママの胸と肩のあたりに振りかけた。
ママは着物に付いた塩を払うと玄関を上がり部屋に入った。

「暑かったぁ。やっぱり着物じゃなくて洋服にすればよかった」

「でも、洋装の喪服は冬物しかなかったんでしょ」

「そうなのよねぇ。やっぱり夏物も買わないとダメかしら?」

そんな事を言いながらママはスルスルと帯を解いて黒い着物を脱いだ。
着物の下に着ていた白い長襦袢姿のママを見てエロチックだとボクは思った。

ママが昔世話になったという人が亡くなったそうで、その人の告別式に行ってきたのだ。

その人は千葉で造園業を営んでいたそうで、ママ曰く「若いときに大変世話になった人」だそうだ。
先月ママがひとりクルマで出かけたのは、その人が入院している病院にお見舞いに行ったからであった。

「癌だったみたいで、凄く痩せちゃってね。可哀想だったわ……」

「ママのお店のお客さんだったの?」

「うん。若いときに働いていたクラブでね。気さくな人で、いつも面白い話を聞かせてくれて、人を笑わせるのが上手な人だったのよ」

20代の頃に働いていた銀座のクラブの常連さんだったそうだ。

「アタシが離婚して、また夜の仕事を始めようと思った時に相談したら……・・。『小さい子供もいるのに大変だろう』って……・・。日本橋にお店を作ってくれたのよ」

ママは一度結婚しているが、5年で離婚して自分の店を始めたと聞いていたが、スポンサーがいたことは知らなかった。

「ママとその人はイイ関係だったの?」

「フフフゥ。昔の話よ。あらショウちゃん気になるの?」

「別に。ただ聞いてみただけだよ」

「あら、焼き餅焼いてるの? ママ嬉しいわ」

「そんなんじゃないよ。店の準備あるから先に行くよ」

そう言ってボクは部屋を後にした。
正直少しばかり動揺していた。

ボクより25年も長く生きているのだから、これまでに何人もの男がママの身体を通り抜けていったことは、至極当然の事だと思う。
だが、何だか生々しい男と女の関係を聞かされたようで、妙な興奮と切なさを感じた。

マンションから外に出ると日差しはまだ強く、いっきに汗が吹き出してきた。


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