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スナック・ママとバーテン見習いボクの同棲生活

オリジナル小説です。

第5章 の記事一覧

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第5章 -03

2013.06.28 (Fri)
ママのお店は日曜日が定休日だが、団体の予約が入れば店を開けることもしばしばある。
この日曜日は地元婦人会の年度末の打ち上げとやらで15名ほどの予約が入っていたので、ボクは翌日の競馬・七夕賞の予想を店が終わった深夜からママのマンションで始めなければならなかった。

七夕賞は福島競馬場で開催される芝2,000メートルの重賞レースだ。
正式名称は『福島県知事賞、福島商工会議所会頭賞』という間に雨垂れが入る長い名称のレースだとウィキペディアに書いてある。

そんな七夕賞であるが今年は震災の影響による福島競馬の開催中止に伴い、中山競馬場で開催された。

いつものようにヤフースポーツの出走表から近6走のデータをエクセルのワークシートに入力し距離別の走破タイムや着順ポイントに上がり3ハロンの平均タイムなどを色付けした。

距離2,000メートルで走破タイムが1番速いのは③オペラブラーボ。
1,800と2,200メートルで速いのは④サンライズベガだ。

人気を集めていたのは金鯱賞で2着だった⑨キャプテントゥーレ。
この馬も1,600と2,000メートルの走破タイムはなかなかのものだ。

しかし、走破タイムが速いからといって成績が必ずしも良いとは限らない。
ボクは走破タイムより着順ポイントと追い込み指数を重視する。

この2つの数字を合算した数字をボクは“総合ポイント”と勝手に呼んでいる。
と言っても誰かに講釈をたれる訳じゃないし、お店のお客さんと競馬の話はしないことに決めている。

総合ポイントが出走する17頭中で1番高い15.0ポイントの馬が⑮イタリアンレッドだ。

ちなみに1,800と2,000メートルで走破タイムが速い③オペラブラーボは8.0ポイント。
1,800と2,200メートルで速い④サンライズベガは5.7ポイントで1番人気の⑨キャプテントゥーレは4.5ポイントである。

〈イタリアンレッド?〉

聞いたことのない馬だった。
と言うよりもボクの競馬はネットの出走表からデータを拾い、エクセルに入力してソートして着色し、ワークシートに入力した数値で馬券を買うので馬の名前を殆ど覚えない。

軸にする馬も番号なら切る馬も番号でしか認識しない。

⑮イタリアンレッドを1着固定の3連単フォーメーションで、切る馬は①⑦⑧⑪⑫⑬⑭⑰、3着に押さえたのが⑥⑯。

42通りからネットバンクに4,000円をコンビニのATMで入金して手数料を引かれた3,800円でオッズの低い4点を切ってPATに投票し終えた時には窓の外はすっかり明るくなっていた。

ボクはセミダブルのベッドで軽いいびきをかいて寝ているママの隣に体を横にした。


第5章 -04

店に入ったのは昼の12時だ。

厨房の奥に仕舞い込んである組み立て式のテーブルと積み重ねて仕舞ってある丸イスを出して15名分の席を用意した。

地元婦人会の奥様方が来店する15時までにボクはオードブルのサラミやチーズを切って盛り付け、ママと手伝いに来てくれたミミちゃんが炊き上がったご飯で作るおにぎりに入れる塩ジャケを焼いた。

ママは留美ちゃんにも手伝いに出てきて欲しいと頼んだが、留美ちゃんにはあっさりと断られた。

15時少し前から次々に婦人会の方が来店しはじめた。
どんな素敵な奥様が来るのかと密かに期待していたのだが、かなり高齢の女性ばかりで婦人会と言うよりは老婦人会といった感じであった。

話し声の馬鹿でかさと、テレビのお笑い番組で入る効果音的なおばちゃんの笑い声に、甲高いカラオケの歌い声でボクの頭の中はキンキンして眩暈を覚えた。
そんな休日の団体客に閉口しながら、空いたグラスを下げたりビールやサワーのお代わりを作っては運び大忙しで七夕賞の結果も気にはなっていたがそれどころではなかった。

ママはカラオケの入力端末を持って、まだ歌っていない客にしきりに歌うように勧めて周っている。

空のビール瓶を持ってカウンターに戻るとカウンターの中でタバコを吸っていたミミちゃんが言った。

「あんたも大変ね。幸子ママにこき使われて……」

「仕事ですから……」

ボクは努めて真面目そうに答えた。

ミミちゃんが入ってから数週間は経つが面と向かってふたりだけで言葉を交わすのは初めてだった。
店の開店時は留美ちゃんもいるし、お店が始まってしまえば客を相手するのに忙しく、店が終わればサッサとミミちゃんは帰ってしまうので、店の中で働くミミちゃんの姿は見ていても話しかけられることは今まで無かったのだ。

「あ~、あたしも仕事抜きてパーッと飲みに行きたいなぁ」

独り言の様に言うミミちゃんにボクは言ってみた。

「今度、一緒に飲みに行きましょうか?」

「幸子ママに悪いわ」

〈え、ママとの関係をこの人は知ってるの?〉

「大丈夫ですよ。ママは関係ありませんから」

何が関係ないのか。
関係とはどういう意味なのか言ってる自分もよくわからないままミミちゃんに携帯のメールアドレスをボクは伝えた。

地元婦人会の団体が帰ったのは18時半過ぎだった。
片付けをして店を出たのは19時を過ぎていたが外はまだ夕暮れ時だった。
夏至は過ぎているはずなのに、この時期はまだ日が沈むのが遅い。

日が傾いたとはいえ、外の気温はまだ高く冷房の効いた店と外の気温差に身体が変になりそうだ。
歩いていると背中と首筋に汗が滲んできた。

ママのマンションに帰ると、着替えもそこそこにハードディスクレコーダーに録画した競馬中継を再生して観た。

早送りボタンで番組冒頭からパドック風景もすっ飛ばす。
スターターが赤い旗を振るところで早送りをとめた。

ゲートが開き各馬がスタートすると①エーシンジーラインと一番人気の⑨キャプテントゥーレが4コーナーまでレースを引っ張ったが、直線でピンクの帽子が中段からスルスルと順位を上げて⑮イタリアンレッドが見事一着でゴール前を駆け抜けた。
一番人気だがボクの総合ポイントでは4.5ポイントしかなかった⑨キャプテントゥーレは12着に終わった。

 2011年7月10日(日)
 第47回七夕賞(GIII)
 一着 ⑮イタリアンレッド
 二着 ⑩タッチミーノット
 三着 ②アニメイトバイオ
 ⑮-⑩-② 三連単 84,620円

 パソコンでネットバンクの口座を確認すると84,620円の払い戻しが入金されていた。
(第6章へつづく)


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第5章 -02

2013.06.27 (Thu)
その夜は平日だと言うのに店は忙しかった。
暇な日もあれば忙しい日もある。
店を開けてみないとさっぱりわからないのが水商売だ。

建設会社の高木社長は社員を5人も連れて飲みに来店し2つのボックス席が埋まり、ママは高木社長のお相手で大忙しだ。

カウンターも常連客で6つしかないスツールの5つが埋まっていた。

オカマのサリーさんも久しぶりに来ていた。
サリーさんは若いときには新宿二丁目でオカマバーをやっていたそうだが、身体を悪くして店を廃業し今はトラック運転手をやっている40半ばのマッチョなおっさんだ。
普段は普通に話すのだが酔うとお姉コトバになるのが特徴である。

「ちょっと。バーテンさん聞いてる? 牛丼食べたら300円でお釣りがきて、生卵の無料券までくれたのよ」

「良かったですね」

「良かったじゃないわよ。何でもかんでも安くすればいいと思って世の中どうなってるのかしら?」

サリーさんの隣りに座っていた常連の大塚さんも会話に加わってきた。

「本当だよなぁ。デフレ、デフレって言うけどどこまで安くすりゃ気が済むのかねぇ」

駅前でも『夏の牛丼祭』と題して並盛り380円が270円と110円も値引きしたセールを謳った垂れ幕を目にした。
個人的には値引きしてようが、してなかろうが、牛丼を食べたくなったら食べに行くとボクは思うけど、競合のひしめく業界ではそうも言っていられないのだろう。

空になったハイボールのグラスを揺すってお代わりを注文しながら大塚さんが続けた。

「牛丼の値引きもそうだけど、270円居酒屋とか。100円のハンバーガーとか……。自動販売機の缶コーヒーが80円とか……。そこまで安くしないと売れないってのは、つまりそれ以上高いものに金を出せない人がこの世の中に増えてるんじゃないのかと俺は思うんだよね」

オカマのサリーさんが食って掛かった。

「ちょっと失礼ね。缶コーヒーぐらい120円でも買えるわよ」

「でも隣の自動販売機が80円で売っていたら、安い方を選ぶだろう?」

「そりゃ決まってるじゃない。わざわざ高い方を選ぶなんて馬鹿なことしないわよ」

「だからどんどん安売り合戦が熾烈になる。でも安く売れば利益は薄くなる訳で、値下げ競争に負けた会社は倒産して、そこで働く人々は失業の憂き目にあう。たとえ勝ち残った会社で働いていても、所詮は薄利の商売だからそれに携わっている人たちの給与もどんどんジリ貧になる。だから安いものばかり買うようになる。どんどん悪循環のデフレスパイラルって奴にハマって行くんだよ」

大塚さんは40代後半のサラリーマンだ。
どんな職種の仕事をしているのか聞いたことはないが管理職だと言っていた。
少し白髪の混じった髪をオールバックにして、銀縁のメガネをかけ、夏でもスーツにネクタイ姿である。

「極端に安い商売ってのはある意味“貧困ビジネス”だと俺は思うんだよね」

「貧困ビジネスってのはホームレスの人を連れてきてタコ部屋に住まわせて、需給させた生活保護をピンハネするやつじゃないですか」

スライスしたレモンを乗せてお代わりのハイボールを出しながらボクが言うと。

「貧しい人間をターゲットにしてるんだから同じことだよ。まぁ、売ってる方も買ってる方もそうは思っちゃいなのだろうけれど……。世の中の価値観ってものがこの20年ぐらいでおかしくなっちまったんじゃないのかなぁ。インターネットや携帯電話が普及して便利な世の中にはなったけど、支出のバランスがひと昔前と大きく変わり、気が付けば子供にまで携帯電話を持たせる時代になっている。通信費に家族4人で3〜4万も払っているんだから。必要最低限のインフラだと思っているのかも知れないけど。ちゃんとしたメシを喰う方が大事なんじゃねぇかなぁ」

独身のボクには4人家族の家庭での支出の内訳というものがまったく想像できないが、街でも塾へ通う小学生の子供が携帯電話を持っているのを目にしたことがある。
高校生であれば自分でアルバイトをして携帯電話の料金を払っているのかも知れないが、小学生であれば間違いなく親が払っているのだろう。

オカマのサリーさんがタバコに火を点けながら言った。

「確かに最近じゃ昼時でも混んでいるのは牛丼屋かハンバーガーショップだけで、普通の定食屋とかはガラガラだもんね」

「震災の影響で財布の紐が固くなっているのも事実だろうが、安売りのビジネスが始まったのは震災の後からではなく、もっと前からだからなぁ。人材派遣だとか非正規雇用の労働者ばかり増えて、この先はどんどん貧富の差が広がる世の中になるんだろうなぁ。ひと昔前、いやバブル崩壊から20年だからふた昔前は一億総中流意識の日本だったのだから笑っちまうよ。高い物から売れてゆく時代が懐かしいねぇ」

「私も二丁目でお店をやっている時は景気のいいお客さんばかりで儲かったわ。でもおかげで毎晩飲みすぎて身体壊しちゃったんだから、良かったのか悪かったのかわからないけどね。アハハハハ」

「あんなアホみたいな好景気はもう2度とこの日本にはやって来ないだろうなぁ。これからは格差社会の時代だよ。貧しい人間はどこまでも貧しくなり、富める人間はますます富を手にする。嫌な世の中だねぇ。高齢化社会も深刻だし……。医者にかかる年寄りが増えて、医療保険制度も今に崩壊するんじゃねぇかなぁ。少子高齢化って言から子供が増えればこの現象は逆転するのだろうけど、突然に出生率が上がる訳もないし、仮に第3のベビーブームが起こって出生率が上がっても消費と労働力になる成人になるまでは20年かかるからなぁ。携帯電話も持てないぐらい貧しくならないと貧乏子沢山なんて家庭は出てこないかもなぁ。あ〜、嫌な世の中だねぇ。バーテンさんおあいそして」

「あら、帰っちゃうの? もう一杯付き合いなさいよ」

酔ったサリーさんが絡んだが、大塚さんは席を立ち上着の内ポケットから長財布を取り出しながら言った。

「悪いけど帰るよ。この不景気でいびつに歪んだ社会の話をしていたら、気持ちが落ち込んできたよ。また今度な」

大塚さんは自分の考えを話すだけ話して帰って行った。
一億総中流意識なんて言葉をボクは初めて聞いた。
だが、子供の頃に自分の家が金持ちだと思ったこともなければ、貧しいと思ったこともない。それが一億総中流意識だったかも知れない。


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第5章 -01

2013.06.26 (Wed)
一週間ぶりに自分のアパートのドアを開けると部屋中が腐敗臭で一杯になっていた。
臭いの元は口を閉じていないゴミ袋に捨てた、食べかすがこびり付いたコンビニ弁当の箱やカップラーメンのカップからだ。

店が忙しい日はつい自分のアパートまで帰るのが億劫になってしまい、ママのマンションで寝泊りする日が続いていた。

店が終わってから一緒に風呂に入って互いの背中を洗いっこして、風呂上りに缶ビールで乾杯してテレビを見ながら軽く食事を共にする生活がいつのまにか二人の日常になっていた。

一昨日からボクは風邪を引いたみたいで喉が痛み、頭がボーッとして少し熱もあるようであった。
ママに風邪をうつしてしては大変だと思い、今夜は自分のアパートに帰って寝ることにしたのであった。

熱で節々が痛むのを我慢してまずはこの悪臭を退治すべくゴミ袋を外のゴミ捨て場に出した。

〈燃えるゴミの収集日っていつだっけ……〉

そんなことをぼんやりと考えてはみたが、強烈な腐敗臭を発するゴミ袋を一刻も早く捨てたかった。
次に部屋の空気を入れ替えようと窓を開けた。
窓の外には手を伸ばせば届きそうな隣のモルタルの壁が見えるだけだ。

7月に入って気温も上がっているので、外からは生暖かい空気がゆるゆると入ってくるだけである。
店から30分も歩いて汗をかいた肌がベトベトして不快だったが敷きっぱなしの煎餅布団に横になった。

先月の晦日にはヤクザの司さんは現れなかった。
代わりに若い組員が菓子折りを持ってやってきた。
司さんは持病の糖尿病が悪化して入院しているそうだ。

旨い物ばかり食べて歩かないから糖尿病はヤクザの職業病だということを何かの雑誌で読んだことがある。
何の雑誌で読んだのか思い出そうとしているうちに眠ってしまったみたいだ。

猛烈な喉の渇きで目が覚めた。
携帯の時計を見ると午後3時6分。12時間も爆睡したようであった。

冷蔵庫の中にある飲みかけのペットボトルのお茶を飲もうと手を伸ばしたが、いつ口を開けたものか定かではないので止めた。
うっかり飲んで腹でも下したら堪ったものではない。のろのろと流しまで歩いて蛇口から生温い水をガブガブと飲んだ。
すっかり熱は下がったようで、渇きもおさまれば喉の痛みも消えていた。


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