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スナック・ママとバーテン見習いボクの同棲生活

オリジナル小説です。

第10章 の記事一覧

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第10章 -04

2013.07.16 (Tue)
最後の客が帰って、店の看板を消してボクはグラスを洗っていた。

ママはいつものようにカウンターで伝票の計算を始めた。

二人だけの店内に軽音楽のBGMが静かに流れている。

「マリがお店に来たことはミミには内緒だからね。いまは大人しく働いてくれてるから…。余計なこと言いたくないし」

「………」

「ワタシが26、マリが27の時に2人が働いていたクラブに入店してきたのがミミなのよ。ワタシは今でもあの子が犯人だとは思っていないけど、彼女が入ってから更衣室でお金が無くなる事件があったりしてね」

「店に変な客を連れて来たって話は?」

「ミミが前の店から引っ張ってきた客がいてね。パリッとしたスーツを着てロマンスグレーの髪を綺麗に撫で付けた紳士で、本人は会社経営者だと言ってたけど、実際は詐欺師だったのよ。店に警察が来てワタシたちも色々聞かれたわ」

「ミミちゃんのお客さんが詐欺師だったのであって、ミミちゃんも詐欺師の一味だった訳じゃないんでしょ」

「そうだとは思うわよ……。あの子も男運が無いって言うか、付き合う男にろくなのがいないのよね」

ボクとミミちゃんが付き合っていると言えるのかどうかわからないが、少しばかりドキリとした。

ボクも“ろくな男じゃない”部類に入るのだろうか。

その前にボクとママの関係も付き合っていると言えるのだろうか?

恵理子さんとの関係だって続いているし……。
やはり複数の女性と身体の関係を続けているボクは“ろくな男じゃない”のかも知れない。

その夜は自分のアパートへ帰ることにした。

仕事が終わって腹も減ったので駅前の牛丼チェーンに入った。

この店は牛丼だけでなく定食もあり、定食には味噌汁とサラダが付くのでありがたい。

店に入ると深夜だというのに店員の元気な声が聞こえてきた。

「いらっしゃいませ」

券売機で焼肉定食の食券を買ってカウンターに座る。
店内には他にひとりの客がカレーライスを食べていた。

待つことしばし、注文した焼肉定食が出てきた。
この時、水が無いことに気づきカウンターの向こうにいる若い店員に言った。

「お水ください」

するともうひとりのボクより先にいた客が言った。

「水!」

カレーを食べていた客にも水が出ていなかったみたいだ。
若い店員は慌ててボクともう1人の客に水を出した。

深夜の店舗に従業員は2人だ。
1人は厨房で調理を担当し、若い店員はカウンターの向こうでドレッシングやタレの補充作業をしている。
大学生のアルバイトだろうか。

焼肉定食を食べ始めると、次の客が入ってきた。
若い店員は元気な声であいさつをする。

「いらっしゃいませ」

調理を必要としない牛丼を注文したのだろうか、程なくして丼を若い店員は客の前に出した。
するとその客が言った。

「水!」

〈えー。君さっきも水出し忘れたじゃん。しかも2人に。店が混雑してる訳でもないのにど~して出し忘れるの?〉

思わず声に出して言ってやりたくなったが黙っていた。
そして、今夜店で客から聞いた話を思い出した。

「普通な奴なんだけど……。普通じゃ考えられないミスばかりするもんだから」

彼もゆうとり教育世代なのだろうとボクは思った。
(第11章へつづく)


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第10章 -03

2013.07.15 (Mon)
2010年の末から中東諸国では“アラブの春”と呼ばれる民主化を要求する大規模な反政府デモが起きていた。
エジプトでは1日2ドルで生活する国民がいるそうだから貧富の差はちょっとやそっとのものではないのだろう。

エジプトの大統領が辞任し30年に及ぶ独裁政権に終止符が打たれた。
だが、そんなに国民を貧しい状況に起きながら30年以上も独裁を続けることが出来るなんてある意味凄いと思う。

朝鮮半島では3代世襲が行われようとしている。
国家を同族経営している人たちが世界には存在するのだ。
彼らは“革命”や“独立”とか“開放”といった大義名分の中で生まれた独裁者たちだが、過程はどうであれ国家を同族経営できるってことに改めて気づいた人が世界で何人かいるんじゃないかとボクは思ったりする。

企業でもワンマン社長や経営陣を身内で固めた同族経営の会社はいくらでもある。
そんな会社の方がトップダウンで物事が決められるので経営判断が早かったりする場合もある。

もしも大塚さんが言うように無責任な議会制民主主義にうんざりする人たちが増えれば、カリスマ性の強い独裁者ばりの人間が現れ、国家の要職を自分の言うことを聞く人間で固めた政府を作っても歓迎する世の中にすら成りえると感じた。
それが良い事なのか、悪い事なのかボクにはわからないが……。


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第10章 -02

2013.07.14 (Sun)
ボクはママとマリさんとミミちゃんの関係が気になっていた。
ミミちゃんはママが日本橋でやっていた店で働いていたとは聞いていたが、銀座でも一緒に働いていたことは初耳だった。

マリさんが言っていた「トラブル女」とはどんな意味なのだろうか。

「バーテンさんハイボールお代わり二つ」

小糸さんがお代わりを注文した。
ボクは2つのグラスに氷を一杯に入れ、メジャーカップで測ったウィスキーを注ぎグラブソーダで割った。
柄の長いバー・スプーンでステアし、スライスしたレモンを乗せて小糸さんと連れの男性の前に出した。

ひと口飲んだ小糸さんが誰に言うともなく言った。

「今日は二人で反省会ですよ」

隣りでレモンサワーを飲んでいる大塚さんが聞いた。

「どうしたのですか?」

「中途採用で入ってもらった若い奴をクビにしたんですよ。クビと言っても試用期間だったので、私の判断で辞めてもらったのですけれどもね。自分たちの指導不足だったのかと思うと何ともやるせなくて……。彼と二人で反省会ですよ」

隣りの小糸さんと一緒の男性が続けた。

「自分、村沢って言います。課長と同じ部署で働いています」

小糸さんと村沢さんの話によれば、試用期間中に辞めてもらった社員は24歳の大卒で、最初に就職した会社を2年ほどで辞めて入ってきたいわゆる第二新卒だそうだ。

ある程度の社会経験があるので電話応対やファックスにコピー機の扱いなどは慣れていたので、有望だと思い熱心に仕事を教えたそうだ。

しかし、2ヶ月を過ぎたころから部署内で取引先とのトラブルが頻発した。

原因は彼であった。
取引先から受けた電話の内容を伝え忘れ納入が滞ってクレームに発展したり、来客の応対をして応接に客を通した後に、小糸さんらに来客を伝え忘れ客を一時間以上も応接に放置したり。
うっかりミスでは許されない事故が相次いだそうだ。

「遅刻はしないし、あいさつもきちんとするし、普通な奴なんだけど……。普通じゃ考えられないミスばかりするもんだから」

「課長が何度注意しても直らないんだから仕方ないですよ。あいつのお陰で余計な仕事ばかり増えちゃって大変だったんですから……」

2人の話を聞いていた大塚さんが言った。

「それて……。発達障害じゃないですかね」

「発達障害?」

「俺もよくは知らないけど、知的障害を伴わない障害で、学習障害とか注意欠陥・多動性障害とか色々と分類されるみたいですよ。まぁ、医者は何かしらの病名を付けたがるからね」

「そんな病気があるんですか」

「ここ最近、大人になってから症状が顕著になる例が増えているみたいですよ。俺が思うにはゆとり教育で競争心とかが削がれた学校教育で育ったのが原因なんじゃないかと思ったりするけどね」

「ゆとり教育かぁ。確かに私たちの時代は土曜日も学校があったけど、今の子供たちは大人と同じで土日休みの週休二日制ですからね。こっちは忙しければ土曜も仕事するのに」

大塚さんが空のグラスを揺すってレモンサワーのお代わりを注文しながら続けた。

「ゆとり教育とやらの一環で、今は学校じゃ業者テストが廃止されて、偏差値を取らないらしいですからね」

「そうなんだよなぁ。うちの息子は今年受験なんだけど、私らの頃と違って業者テストがないから偏差値もわからないし……。成績が悪いのは間違いないんだけどさぁ。だから塾にも通わせているし、模擬試験も受けさせてるよ」

「課長のお子さん受験生ですか?」

「うん。中学3年生だよ。塾の先生が言うには、私立中学は土曜も授業があるので、公立の中学と私立の中学じゃ3年間で授業時間が1,000時間も差があるんだってよ」

「1,000時間ですか!」

「そんなの最初からわかっていたら中学から私立にって、今から思ってもねぇ。小学6年から受験なんて考えてもみなかったし。子供3人も中学から私立に通わせる程の金もないから無理な話だけどさぁ」

大塚さんが言った。

「俺が思うに、今の世の中の格差はバブル経済の崩壊とかリーマンショックとかの景気低迷だけが原因じゃなく、ゆとり教育にも問題があるんじゃないかな」

ボクが高校受験だった中学3年生の頃は学校で毎月のように業者テストがあって、偏差値や成績が全国で何番目だとか数字が印字されたテスト結果を渡された記憶がある。

当時は数字で自分の将来が決められるようで不満な気持ちもあったが、社会に出てみれば数字からは逃げられないのが現実だ。

営業は売上という数字のノルマを背負わされて働かされるし、一人暮らしをすれば家賃に水道光熱費の支払いを計算して引き落とし金額を計算する。
気づけば競馬も数字で予想している自分がいる。

「これからの日本はどうなっちゃうのでしょうかね? 総理大臣はころころと替わるし」

沢村さんがため息まじりに言いうと、大塚さんがうなづきなら話し出した。

「本当だよな。毎年のように総理大臣が替わって、発言の揚げ足取りで国会を空転させる税金泥棒の議員たちが運営する名ばかりの無責任な議会制民主主義にうんざりだなぁ。政治家ってのはもっと志の高いもんだと思うんだけど、シノギになっちまってる奴らが多すぎるみたいだなぁ。民主主義ってのが本当にいいのか疑問にすら思うよ」



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第10章 -01

2013.07.13 (Sat)
先週から九月に入ったがまだ暑さが和らぐ気配はない。
その日、最初に店のドアを開けて入ってきたのは和服姿の年配の女性だった。

「ごめんください……」

「いらっしゃいませ」

「………」

見るからに高そうな銀色の糸で織られた着物を着たその女性は硬い表情で誰かを探すように店の中に視線を泳がせている。

厨房から店に出てきたママを見つけるとパットと表情が和らいだ。
と同時にママが和服の女性を見て言った。

「マリじゃない」

「幸子」

「お久しぶり。元気だった?」

「お蔭様でね。幸子も元気そうじゃない。ちょっと近くまで来たから、寄ってみたのよ」

「ショウ君。こちらマリさん。昔、一緒に銀座のお店で働いていたのよ」

「昔、昔の大昔よねぇ。もう30年以上も前だもの」

そう言ってママとマリさんは笑い出した。
マリさんは着物の裾を押さえてカンウンターのスツールへ座った。

「暑かったから喉が渇いちゃった。おビール頂こうかしら」

ボクは冷えたグラスに瓶ビールを注いで彼女の前に出した。

「バーテンさん……。もうひとつグラス、ママにも。あなたも飲みなさいよ」

「はい、かしこまりました」

ママはふざけてわざと丁寧に答えた。

ボクはカウンターを挟んでマリさんの前に立つママの前にもグラスを出した。
彼女は着物の袖を左手で押さえながら右手に持った瓶ビールをママのグラスに上手に注いだ。

「乾杯!」

マリさんは右手でグラスの淵を持ち、左手はグラスの底を押さえるように支え、両手で持ったグラスを口元へ運ぶ。
その仕草が上品だとボクは思った。

決して大きくはないが意志が強そうな瞳と、真っ赤な紅の塗られた薄く小さな唇。
目元の小じわとほうれい線が年齢を感じさせるが、間違いなく美人の部類に入る顔立ちだ。
和服姿のせいもあるが、映画『極道の妻たち』の岩下志麻のような女性だと思った。

店には他に客もいないので、二人は昔話に花を咲かせていた。

「新橋のお店? もう3年前に閉めたわよ。リーマンショックでもうやってられないと思ったから。震災の時にお店やめていて良かった。とつくづく思った……。ごめんなさい。まだ頑張っている人の前でこんなことを言って」

「じゃあ、旦那さんと悠々自適の隠居生活なのね」

「主人は去年の年末に亡くなったのよ」

「あら、やだ。年賀状出しちゃったじゃない」

「いいのよ。だって亡くなったのが12月の30日なんだから、喪中ハガキを出す方が迷惑だと思って出さなかったのよ。だから気にしないで」

ボクはカウンターの後ろにある客のキープボトルの埃を布巾で掃除しながら、二人の会話を聞いていた。

ママが週末に手伝ってもらっているヘルプスタッフの話になったとき。

「え、静江さんここで働いているの? 気をつけなさいよ。何か盗まれたり、店に変な客を連れて来られたりしてない? トラブル女なのはあなたもわかってるでしょ?」

〈静江さんってミミちゃんのことだよね?〉

ボクは2人の会話にミミちゃんの話題が出てきたことに驚き、拭いているボトルを落としそうになった。
ママがどう答えるのか気になっていると、店のドアが開いてスーツ姿の客が来店し2人の会話が中断してしまった。

「ママ。3人ね」

「いらっしゃいませ。どうぞボックス席へ」

客商売とは不思議なもので、ひと組の客が入ってくると立て続けに次から次と客が入ってくることがある。
あっと言う間にボックス席2つとカウンターも常連の客で3つが埋まった。

「じゃあ、私はそろそろ失礼するわ」

マリさんが席を立ってバックから財布を出そうとすると。
ママがマリさんの元へ走り寄り、その手を押さえた。

「今日はいいから……」

「じゃあお言葉に甘えてご馳走になるわ」

「ごめんなさいね。急にバタバタしてきちゃって、ゆっくりお話もできなくて……。今度ゆっくりお話しましょう」
 ママはマリさんをドアの外まで見送った。

「ありがとうございました」

ボクはマリさんの背中に向けてカウンターから声をかけた。
ドアの外にマリさんの姿が消えると、常連の大塚さんがボクに聞いてきた。

「いまの人誰?」

「ママが若いときに銀座のお店で一緒に働いていた方みたいですよ」

「妙に貫禄のある人だと思ったら、銀座で働いていた人か」

「ワタシは貫禄不足で悪かったわね」

店の中に戻ってきたママが大塚さんの後ろで笑いながら肘鉄を打った。

「そんな意味で言ったんじゃないよ。ママはママで素敵だよ」

大塚さんの隣りに座っている小糸さんと連れのお客様が笑った。


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